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連載企画

世界の"世界遺産"から

第100回 いつでも、どこでも、心に青森と縄文を。 2018年3月22日

お恥ずかしながらわたくしは、左右、東西南北の認識能力がかなりいかれている。方向音痴というワケではなく、地図もふつうに読めるのだが、たとえば助手席で「あ、この先を右に~!」と言いながら、左を指す。文章内の表記はたいがいが逆になっており、毎度、念入りなチェックが必要だ。その際、左右については、茶碗が左、箸が右だよね、という初歩的な術を使うのだが、東西南北は少々大がかり。なぜなら、自動的に40年前の青森市橋本1丁目に心が飛んでしまうから。

東は立方体だった頃のホテル青森、西は病院、南は新築直後の橋本小学校、北は古い鉄工所……。東京で、日本各地で、はたまた海外で、東西南北を思うたびいつだって、方角を学んだ当時に住んでいた懐かしの景色へとタイムスリップしてしまう。エジプトではピラミッドの横に沈むオリオン座を見ながら、リビアのサハラでは砂の山にひとり立ち夕日を眺めながら、こちらが西なら……と思ったとたん、時空を移動。どんなに遠く離れた場所でも、自分は青森とつながっているのだと苦笑するはめになる。

前回の広島のように、最近ではあちらこちらの世界遺産から縄文へと思いがいたることも多い。メキシコの巨大な遺跡テオティワカンでは黒曜石の展示を前にして、カナディアンロッキーでは先住民族の口承文化を知って、ぐる~っと北まわりで縄文とつながっていないかしら、妄想暴走を堪能したのも愉快だった。

一方で青森の世界遺産・白神山地では、歩くたびに思う。県に世界遺産があることを、山の恵みをめぐる興味深い生態系の世界を、地元の皆さまはもっとひけらかしてもいいのに……と。山の実りを得ることが昔からの日常であるがゆえ、ブナの森の価値を実感しにくいのかもしれないが、47都道府県を見てみれば、世界遺産を持たない自治体が大半なのである。

未来の世界遺産候補・縄文遺跡も、また然り。これまた身近過ぎるのだろうが、自慢が足りないように思えるのだ。土偶や土器の美しい細工、三内丸山遺跡の豊かな暮らし、朱色が目に眩しく映る是川石器時代遺跡の漆塗りなどなど、知れば知るほど面白い。青森県民の奥ゆかしい気質は美徳だとわかってはいるのだが、世界に誇るべき遺産であることを、もっともっと熱く語ってもいいのではないだろうか。

このコラムは今回でとっつばれことなるが、国内外、あちらこちらで青森を、縄文をひけらかしながらの世界遺産旅は続く。旅の友、シャコちゃんことわたくしのプチ遮光器土偶とともにのんだくれながら……。皆さま、長きにわたりおつきあいいただき、ほんとうにありがとうございました。

大英博物館の縄文展示を満喫し、誇らしげなシャコちゃん。
写真:松隈直樹

 

バリ島のヴィラにて、くつろぐシャコちゃん。
写真:松隈直樹

プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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