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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第3回 「土製耳飾りを讃える」 2009年6月15日

円のなかに閉じ込められた小さい宇宙の話をしませんか?

この精巧な円の造形で耳を飾った人々がいました

 

耳は音をとらえて身体の内と外なる世界をつなぐ

とらえられた音はおおらかに、不可解に、身体の内でイメージの像を結ぶ

目がとらえるものよりは はるかに入り組み重なり合い

しかも次々と姿をかえる

 

たとえば灯のない新月のむかし

風もなく、鳴声もない静謐な夜の暗闇でさえ

小虫の羽音、ガマの歩み、両者の出会い・・・一瞬の休みもない生の営みを

とらえる耳を 縄文の人々はもっていたに違いありません

 

その耳は教えたでしょう

神秘の気配に溢れて 世界は休むことなく変転していると

灯のひとつも無い 漆黒の闇に身をおくとき

目は用をなさず

鼻腔と、耳と、皮膚にかかる感覚のみが 自分という領域をとらえ

魂が 外界にぬけ出してしまうことを警告し

身体に囲われた自分という存在を 保証するものだったとはいえませんか?

茨城県三和町 二十五里寺遺跡出土の耳飾り (縄文晩期)

 

その境界を取払えばすなわち 内と外の世界が融合し

魂が時空を自由に往き来する トランスの混沌があったのでしょう

自分の存在もが変転の只中に身をおく そのとき

ひと、樹、獣、鳥、魚・・・そして精霊

きょう、きのう、記憶・・・そして夢

幾重にも重なりあう 時空のかなめで

この飾りはそっとゆれていた

ご覧なさい

完結した円という循環の中に

微妙に食い違う対称の空間が見えるでしょう

上下にも左右にも

完全なバランスを保ちながら同じではない

対称であり非対称でもある

上が下に、下が上にねじれて

内のはずが外になる

表のはずが裏になる

例えば一本の樹の陰と日向、夜と昼

山と渓谷、雨と日照り

誕生と死別

狩るものと狩られるもの

与えるものと与えられるもの

 

美しく円の中に配されているのは「世界」

私たちをかたちづくり、とりまき、交錯して変転する

縄文時代の人はそれほど深く 世界を理解していたということが

この飾りから見えはしませんか?

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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