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連載企画

世界の"世界遺産"から

第26回 不屈の精神こそ、スコットランドの世界遺産。 2011年6月6日
バグパイプの音が加わり、
スコットランドの情景は完成する。
写真:松隈直樹

勤め人時代、イギリス人の上司が心筋梗塞で倒れ、救急車が呼ばれたことがある。かろうじて意識はあったっため、救急隊員の方が日本語で「イギリス人ですか?」と尋ねたところ、「いや、スコットランド人です!」ときっぱり。たとえば海外で誰かに「日本の方ですか?」と聞かれ、「東北出身です!」「青森県民です」、はたまた「No, I am a Jomonjin!」などと答えるような感覚である。彼が元気に復活したからこそ笑い話になったが、なんたるじょっぱり。とはいえ、命に関わる状況においても出自を誇る彼を微笑ましく思い、一気に好感度が上がったのを覚えている。

スコットランドは、イギリスの北部。首都エディンバラの旧市街は、世界遺産に登録されている。その要、切り立った崖の上に建つエディンバラ城の姿は、スコットランドの景色の典型といっていいだろう。イギリスといえば緑の丘がゆるやかに広がる田園風景を想像なさるかもしれないが、北に向かうと様相はがらりと変化。うっすらと草に覆われただけの岩山が織り成す、ダイナミックな景色が続く。合間には深い森や、ネッシーのネス湖をはじめ静かに佇む湖があり、人智の及ばない神秘を感じるほど美しい。眺めを肴にスコッチ・ウイスキーをぐびぐびやれば最高の気分だが、一方で素人目に見ても実り豊かな土地ではないのはわかる。しかも、過去を振り返ってみれば、スコットランドの歴史は血にまみれた戦いの連続。隣接するイングランドとの争いや、権力や宗教をめぐる内紛が絶えず繰り返されてきた。1707年にイングランドと統合されてからも、また然り。

そんななかで独自の文化を守り通してきたスコットランド人の美徳は、耐えること。耐えに耐え、実現したのは、1999年の議会復活である。300年ぶりに、自治への舵が切られたのだ。ケチだの野蛮だのと、イングランド人からは馬鹿にされることも多いが、そんな欠点を打ち消すほど、大らかで陽気な性格も際だっている。独特の明るい気質は困難を経たからこそ育まれたものであり、不屈の精神を支えたと思うのだ。

東北もまた、耐えに耐えてきた。そして、スコットランド同様の不屈の精神が培われてきた。この年になって、青森や東北の素晴らしさが身に染みてよくわかる。単なる郷愁ではなく、多少なりとも経験を重ねたがゆえの理解である。だからこそ、自分の故郷を誇り思う。スコットランド人の上司のようなマネはできないかもしれないが、その火は最期の最期まで絶やしたくない。いつまでも、わたくしはじょっぱりでありたい。

世界遺産の旧市街の要、エディンバラ城。
写真:松隈直樹

コメント

  • こんにちは。時々、こちらのサイトに寄らせていただいております。いろんな国の文化や縄文文化についてのエッセイをいつも楽しく拝読しています。

    青森生まれ青森育ちで実家は某巨大縄文遺跡のすぐ近く(隣接しているといってもいい・・・)で、縄文文化には子どものころから親しんできましたが、それとは別にヨーロッパのケルト文化や中南米の文化などにも興味があります。たまたま、最近知り合ったスコットランド人の友人に東北地方の歴史や、中央政府からの呼称や扱いなどについて説明したところ、「それはまったくスコットランドと同じだね!」と言われました。私も以前から両者の歴史や立場などが似ているな、と感じていたのですが、それはこちらの勝手な思い込みなのかもしれないと思っていました。でも実際に話をしてみて相手もそう感じてくれたのはちょっと嬉しかったです。この文章を読んでそのエピソードを思い出しました。東北人はもっと自分たちの歴史について情報を共有し、自分たちの地域に誇りを持って未来に向かっていく必要があると思っています。スコットランドの人たちからいつも勇気をもらっていますが、東北からも世界に向けてもっとメッセージを発信できるようになったらいいなと願っています。

    2013年5月13日 10:18 AM | tsubomi

第26回 不屈の精神こそ、スコットランドの世界遺産。 への1件のコメント

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プロフィール

山内 史子

ライター、紀行家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」(小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。2016年6月に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)を上梓。

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