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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第13回 山が呼んでるぜ –火山のある風景– 2009年11月11日

「うららかに青い空には陽がてり 火山は眠ってゐた・・・」

浅間山は、小さく咳き込みながら林を散歩する詩人が似合う山だと思っていました。 しかし実際にその山麓に立ってみると、雄壮に風景を支配する火山の姿に心を洗われる心地がします。

森のスーレイ(自費出版)より

降灰や噴火の被害も被っておられる地元の方々を差し置いて不届きな言いようですが、火山が、毎日見る風景の中心にある暮らしをふと うらやましく思いました。

軽井沢から浅間の裾野を周るように走る しなの鉄道で三つめの駅が御代田、町のどこからでも浅間山が見えます。河原田遺跡から出土した美しい紋様を持つ縄文土器(焼町土器)は国重要文化財に指定されています。

ここに浅間縄文ミュージアムというなかなか洗練されて素敵な博物館があります。小さいながらも私の知る限り 展示の美しさでは群を抜いた地方博物館です。

メルシャンミュージアムのお隣ということで足を運ばれた方も多いかもしれません。 この博物館の設立から運営までを一手に主導してこられた学芸員の堤さんは考古学者というよりも浅間山が似合う文学青年の感があります。見ることができない精神性までを体感してもらおうとするこの博物館のポリシーは、堤さんの感性無くしては生まれ得なかったでしょう。

この土地の精神性の中心にあるのは浅間山です。おそらく縄文の昔も今も。

土地を生み出し、破壊し、そこにまた命を甦らせる 根源的支配者としての火山。

近代人をしても歯が立たない大自然の威力の象徴として、浅間山はそびえています。

火山にとどまらず、「山」というゆるぎない存在を日々仰ぎ見ることは日本人の暮らしに欠くべからざる精神的拠り所だったのではないでしょうか?

そこここにあった郷土の「山」を日常の風景から無くしてしまったこと・・・これは日本のベッドタウン計画の決定的落ち度ではないかと真剣に考えてしまいます。

どこであろうが平らにして造成されるニュータウンの風景は あまりにも画一的で個性を欠いています。同じつくりの町、同じ形の家、同じ形の校舎で育った子供に 民族や文化の多様性を説いて それは本当に理解されるのでしょうか?

浅間山麓の縄文村(宮平遺跡)
浅間縄文ミュージアム壁画より

それを育んだ風景の中にあってこそ神々しいはずの聖なる形は、寺や博物館に押し込められて、人間の精神は環境から切り離されてしまった。

そればかりか その切断の痛みに私たちはもう気がつきもしない。

朝に夕に、四季折々に片時もはなれぬ原風景として、故郷の山を記憶することが人にとって悪いことのはずがありません。

そびえる山、悠々たる大河、静謐な森・・・私たちが住まうこの惑星の霊性を感じとることができる場所、時間、そしてそれらを敬い畏れる心。

風景を霊的存在として捜し求める感性は、まだ私たちにあるのでしょうか。

風景にあるべき神性を備え忘れた今の都市が、人間を狂奔する制御不能のものにしているとはいえないでしょうか。

これは「便利できれいな」ニュータウンで子供を育てている私自身が持った危機感なのです。 人の精神もまた、土地の起伏や手ざわりによって育まれるということを私たちは一刻も早く思い出すべきです。

山河がかたちづくるのは土地の姿だけではなく人と風土にいきわたる精神の姿でもあったはずです。 精神風景の中心に、言葉にすることさえできないほど絶大な霊的存在がどっしりとあってこそ 人の心は謙虚さを保ち、社会は足るを知るのではないでしょうか?

どれも山を仰ぎ、河に抱かれるようにつくられていた縄文の村に、私が敬意を感じる理由は、そのあたりかもしれません。

さて、ありのままの山や河がもう一度顧みられるようになる時代は、はたして来るのでしょうか。 ・・・そのときまで いったいいくつの故郷の山河が 生きながらえているのでしょうか?

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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