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連載企画

世界の"世界遺産"から

第30回 謎もまた、世界遺産級に壮大なピラミッド。 2011年10月4日

チュニジアのジャスミン革命を発端とする中東の激動は、少しずつ平静な日常へと向かいつつあるようだ。とはいえ、欧州の観光客が戻ってきたと聞くエジプトとて、日本の外務省ではまだ渡航に関して注意を喚起している。新たな考古学的発見がニュースになるたびに胸がときめくわたくしは、再訪の機会に恵まれるにはまだ、しばらく時間がかかることだろう。初回にご紹介した登録第1号のアブシンベル神殿をはじめ、エジプトは世界遺産の宝庫。国全体が古代博物館だといっても過言ではない。その要となるのは、なんといってもギザのピラミッドである。
テレビ等でさんざん見慣れた巨大な建造物を前にして圧倒されたのは、大きさにも増して、四角錐のラインだった。見飽きないほどに美しい。角が東西南北を正確に指している上、かつては全体が石灰岩で覆われ、太陽にきらめいていたと聞き、さらにうっとり。最大のクフ王のピラミッドは、内部のダイナミックな構造にも息をのんだ。紀元前26世紀、4000年以上も前に、どうやって、なぜ……。そう、見るだけではなく、謎にまつわる諸説様々な意見にふれ、あれこれ妄想するだけで幸せにひたれるのも、ピラミッドの魅力である。3つの巨大なピラミッドの配列は、オリオン座を模したもの。一辺の長さは、地球の大きさを理解して算出した。真偽はともかく、ロマンにあふれているではないか。ピタゴラスやニュートンといった天才たちも関心を抱いていたそうだが、彼らにしてみれば壮大でエキサイティングなパズルゲームのごとき存在だったのかもしれない。
調査により、まことしやかに語られていた説が覆されるケースも興味深い。たとえばピラミッドの建築にかりだされた労働者は、過酷な仕打ちを受けていたという話。紀元前5世紀にエジプトを訪れたヘロドトスが世間に広めたらしく、実際、労働者の背骨には、重労働の痕跡がみられる。しかし最近では、場合によってはきちんと治療を受け、パンやビールもふるまわれていたのがわかってきた。仕事自体は大変だったものの、それ相応の待遇だったようだ。一説よれば、宗教関係の施設建設に関わるように、人々は喜びをもって参加していたのではないかとも。無慈悲で知られる秦の始皇帝にまつわるエピソードよりもむしろ、三内丸山遺跡のあの大きな栗の木を山から運んできた縄文人の感覚の方が、ピラミッドに携わった労働者には近いのかな……。などと考えながらピラミッドを見つめているち、口のなかがじゃりじゃりしてきた。砂である。ファラオたちは皆、この砂のせいで歯の痛みに悩まされていたとガイドに聞き、笑いがこみあげる。巨大な建造物を作れても、小さな砂粒にはお手上げだったのですね。その砂が幾年月もの間、遺跡を守ってきたエジプトについては、次回も引き続き。

カフラー王のピラミッドと鼻のとれたスフィンクス。写真:松隈直樹クフ王のピラミッド内の大回廊。高さ約9m。
写真:松隈直樹

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プロフィール

山内 史子

ライター、紀行家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」(小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。2016年6月に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)を上梓。

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