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連載企画

小山センセイの縄文徒然草 小山修三

第六回 縄文人と現代人 2011年11月16日

「縄文人と現代人、どちらが幸せ?」というタイトルで講演してくれと吹田市の市民グループから頼まれた。自然の中でのびのびと暮らした野生への憧憬がもとにあり、縄文讃歌が期待されていたのだと思う。しかし、幸・不幸などきわめて個人的な問題だろう。とはいえ、日ごろ「わしは縄文人だ」などと大口をたたいているせいもあり、おめおめと引き下がるわけにも行かない。さーて困った。

15歳以上の平均死亡年齢の時代的変遷 (小林和正 1967による、*厚生労働省2011)

わたしたちが悲しみ、つまり不幸だと感じる時の1つは、身近な人の死であろう。そこで、寿命や病気をとりあげて考えることにした。狩猟採集民をはじめとする民族社会の生活は厳しく、寿命の短いことは統計が示している。そこで、まず、古人骨から推定される平均寿命を見ることにした(表)。

縄文時代は31歳、現代の80歳台に比べるときわめて短い。その差は医療、栄養、衛生の進歩のおかげと言っていいだろう。例えば、わたしが縄文的といえるアボリジニのムラで暮らしていた時、日中の暑さ、夜の寒さ、ムシ、怪我、激しい労働、飲料水がない、偏った食(栄養)、空腹、犬も一緒に暮らしていたこと。今振り返るとそら恐ろしいほどだ。歴史資料を見るとインフルエンザ、ハシカ、梅毒などの伝染病によって、ムラが消えてしまう例も少なくない。それでも、人類はしぶとく生き続けてきたのである。

合掌土偶(国宝)八戸市風張遺跡1出土

次に、寿命の男女差に注目してみよう。時代別に見ると縄文・弥生はほぼ同じだったが古墳・室町は女性がやや長くなる。しかし、江戸時代の女性の命は短くなっている、これは女性に大きな負担がかかった時代だったのだ。これに比べ、現代女性の寿命の長さはめざましい。

妊娠-出産-育児は女性のもっとも大きな役割だが、その過程は大きなリスクをはらんでいる。妊婦と乳幼児の死亡率の高さが解決されるのは、日本では明治時代以降である。妊婦をあらわす土偶、三内丸山遺跡の子どもの墓、副葬品だとも言われる赤子の手形などなど、子孫繁栄の願いとともに死者に対する悲しみが伝わってくる。縄文人のライフ・サイクルは現代人と比べて回転が速かった。15歳で出産をはじめると、30歳でおバアさん、45歳でヒイバアさん、60歳ではなんと言うのか、ゴッドマザーになるのだ。苦難を潜り抜けた女性は大勢の親族に囲まれて、至福の時をもったにちがいない。その点では「おひとりさま」化の進む現代人よりずっと幸せだったと思う。

合掌土偶について

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プロフィール

小山センセイの縄文徒然草

1939年香川県生まれ。元吹田市立博物館館長、国立民族学博物館名誉教授。
Ph.D(カリフォルニア大学)。専攻は、考古学、文化人類学。

狩猟採集社会における人口動態と自然環境への適応のかたちに興味を持ち、これまでに縄文時代の人口シミュレーションやオーストラリア・アボリジニ社会の研
究に従事。この民族学研究の成果をつかい、縄文時代の社会を構築する試みをおこなっている。

主な著書に、『狩人の大地-オーストラリア・アボリジニの世界-』(雄山閣出版)、『縄文学への道』(NHKブックス)、『縄文探検』(中公 文庫)、『森と生きる-対立と共存のかたち』(山川出版社)、『世界の食文化7 オーストラリア・ニュージーランド』(編著・農文協)などがある。

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