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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第43回 粘土でドラゴン! ―精霊物語が語られるときー 2012年1月11日

ブータン国王が南相馬の子どもたちにされた「竜の話」は心に残りました。知恵を集めた言葉をまっすぐに子どもたちの心に届けるにはどうすればよいのかと はっきり教えてもらった気がします。

理不尽で受け入れがたい深みに足をとられてしまいそうな子ども達がいるとき、私たち「おとな」が無粋に背中を押すのではなく、静かに顔を上げて共に明るい岸辺に眼をやることができる物語。そう、今こそ 「精霊の物語」が語られる時だ・・・・と、それをすっかり忘れていた私たちに、遠い山の国からから来た王様が思い出させてくれた、それは力強いエピソードでした。

悲しみや喜びの経験を食べて成長する竜、一人ひとりの人の心の中に住んでいるその竜を「大切に育てなさい」と子どもに説くことができる人に、私もなりたいと強く思いました。

おおらかに深遠に、自在に姿を変えながら、一人ひとりの心に寄り添うことができる…竜は実はそのためにこそ、姿を見せないでいてくれるのかもしれませんね。

以前、三内丸山遺跡収蔵庫で満載の出土品のなか、至悦の土器「触察」ツアーを挙行した広瀬先生が、本拠地の民博がある関西で呼びかけて活動している「4しょく会」(触・食・色・職に関する視覚障害者文化を育てる会)からワークショップの依頼を頂いたのは昨秋のことでした。

イーリアンパイプを奏でる金子鉄心氏と氏の

芸術の秋、「音楽と造形を楽しむ機会にしよう!」と意気投合、友人のケルト音楽演奏家、金子鉄心さんにアイルランドのバグパイプであるイーリアンパイプスの演奏をお願いしました。妖精の国アイルランドの伝統音楽を聴きながら、見果てぬ夢のようにイメージを膨らませて、妖精や精霊の姿を思い描いてみよう。さらに、思い思いに浮かんだその精霊の姿を粘土で形にしてみようという企てです。

目が見える人も見えない人も参加する 文字通りバリアフリーなワークショップですから 誰も見たことがない精霊や妖精の姿を創出することは、どちらの人にも公平な条件かな?と思ったわけです。

広瀬先生作品 「妄想の手」

そして当日、草原を吹く風のように響き渡るイーリアンパイプスの音色に陶然と聞き惚れながら、50人近い人たちがそれぞれの心に像を結んだ「精霊の姿」を、粘土で表現してくれたのでした。

何よりも興奮したのは、参加した皆さんのイメージがあふれ出るように作品に現れていたことでした。とくに「視覚障害者」の方々が指先から繰り出してくるイメージの豊かさには驚かされました。

触るという身体的理解から得られたイメージが、再び指先から粘土に伝えられて形になる。広瀬先生がおっしゃるところの「触察」で把握された「モノの姿」のイメージは、見知ってはいるけれど実態として把握できていない我々の「視覚情報」よりはよっぽど 直接的にシンプルに形にできるのかもしれないと ふと思いました。

ムーミン谷の妖精とペットの犬

古代ケルトや縄文の時代、見えないモノの「気配」とも言える精霊を 身体の五感や第六感で「知っている」人々にとっては、その4次元的存在をわざわざひとつの姿に決める必要さえ無かったかもしれません。

語り終えた瞬間に消え失せながら、また誰かの口にのぼって再生し、一人ひとりの心に像を結びつつ変幻する精霊とその物語。ニュータウンの地下鉄に乗ってやってきた当座の人々もやがて、風の語りのようなイーリアンパイプスの音色が揺り動かす心の原野をさすらって、そこここに感じられる気配を追い求めたのでしょう。

古代縄文の森、漆黒の暗闇と焚き火の炎が揺らす光のあいだで精霊の物語を語りながら、あの時のおとなと子どもは どのような姿を垣間見たでしょう。

大災害に何度も見舞われた彼らが そのたびに導かれ、新たに辿り着いた岸辺があったから今の私たちがここにいる。「竜」を大切に育てた人たちの精霊の物語を、再び子どもたちに 語り伝えるべき時代が来たのかもしれません。

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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