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連載企画

世界の"世界遺産"から

第35回 「是川縄文館」で鮮やかな縄文ワールド満喫。 2012年3月5日

漆塗りの上にくっきりと浮かんだ指の跡を目にして、思わずにんまりと笑顔がこぼれた。明らかに、模様ではない。図らずも作業の途中でさわってしまったという印象を受ける。遙か縄文時代にも、うっかりさんがいた証。日頃からサザエさん級のボケナスをかましてばかりの自分にとっては、時を越えてのお仲間発見! これまでの歴史妄想人生のなかでおそらく、もっとも興奮し、過去とリアルに手をつないだ瞬間だったのではないかと思う。触った瞬間にどんな表情を見せたのか、手についた漆はどうしたのか、かぶれてエライ目に合わなかったか、仲間から笑われなかったか……指紋が想像力を刺激し、次から次へとイメージが広がる。指や手の型がついた素焼きの土器も見つかっているが、漆ゆえにハプニング的要素が強いのだろう。とてもとても人間的な情景を妄想させてくれて、愛おしくなった。昨年7月10日に開館したばかりの、八戸市の「是川縄文館」でのひとときである。

魅せられたのは、うっかり作品だけではない。漆の紅をまとった展示品の多さに、とにかくびっくり。弓矢など狩の道具、櫛をはじめとする装飾品、さらには器やカゴなど日常や儀式に使われたのであろう品々と、実に多様なのにも圧倒された。しかもそのままこっそり持ち帰って(いけません)使いたいほど、いい趣なのだ。森の緑や土の茶色が幅をきかせていた、心の縄文ワールドの随所に鮮やかな差し色が入り、人々がよりいきいきと動き出す。風張遺跡で見つかった合掌土偶にも、ノックダウン。両膝を立てたいわゆる体育座りの姿勢で、手を合わせている。顔が平面なのはお面だからと聞き、陰に隠れた顔が気になる。なにかに祈る際には、今でいう正座ではなく、皆、この体育座りになっていたのかしらとも好奇ふつふつ。

展示内容が充実しているのに加え、灯りの加減ほか見せる術も素晴らしく、そこかしこで目が釘付けに。青森県びいき? いやいや、東京から同行したほかの6人も全員、時間を忘れていたのを、しかと記しておきたい。全国どころか県内でもまだ未体験の方が少なくないと思うが、「是川縄文館」は極めて面白い夢を見せてくれる、酒ナシでも縄文にたっぷり酔える場所である。

一杯やりたい気分になる、漆塗りの器。
写真:松隈直樹
是川縄文館で出会った合掌土偶(国宝)
写真:松隈直樹

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プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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