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連載企画

小山センセイの縄文徒然草 小山修三

第20回 やっかいな石器と縄文料理 2013年1月28日

考古学の本や報告書には「石器」として、ヤリやヤジリ、オノなどの写真や実測図が掲載されている。しかし、ほかにも磨石(すりいし)、敲石(たたきいし)、凹石(くぼみいし)、石皿、台石など数多くの石器がある。これらがあまり図示されないのは、なべて、大きすぎる(他のものとくらべて)、色が地味、使用痕が主で、定型化されていないものが多いからで、美的な面を強調しがちな出版物には適していないのだろう。三内丸山遺跡で聞いた話では、何十年も前に発掘調査された竪穴住居跡を再度掘ってみたら、土器や小型の石器はほとんどなかったが、大きな石皿はそのまま放置されていたそうだ。いわば、やっかいな遺物だったことがわかる。

しかし、オーストラリアで調査していた頃、大きな石のある場所はキャンプ地をみつける目印になった。大きな石が転がっている場所の近くには水があり、風も防げる。あたりに羽毛、動物の骨、折れたナイフ、空き缶が散乱し、ときには忘れ物らしいアクセサリーまでみつかるので、人々が繰り返し利用していることがよくわかった。

縄文時代のヘビー・デュティーと呼ばれる道具のなかで、磨石(すりいし)はすりつぶす、叩き石は砕く、それを受ける石皿や凹石(くぼみいし)が重要である。石皿は使いすぎて穴が空いているものさえあり、磨石(すりいし)は手ごろな大きさで、使用によって全体がツルツルになっている。つまり、縄文人は食材を砕いて粉またはノリ状にして食べていた、それは粉食、つまりコナモン主体だったことを示している。石毛直道(いしげなおみち)さん(元国立民族学博物館館長)に聞くと、いい粉ができるのは回転臼ができてから、石皿-すり石ではツブツブした粗い粉しかできないと言った。

トチやドングリはアク抜きのために砕くと処理が早くなる。クズ、ワラビ、オオウバユリなどは叩き潰してデンプンをとる、ヒエ、ソバ、キビなどの雑穀も粉にしたほうが消化がよい。残念ながら麺類はなかったようだが、団子、パン、クッキー、練り物ならOK。それを、蒸す、灰にうずめる、焼く、なかでも多かったのは汁の中に直接いれることだっただろう。肉や魚もミンチやツミレにした筈だ。

平成二十五年一月二日に放送された「和食が世界遺産? ~おいしい日本一万五千年の旅~」の撮影をしたとき、三内丸山遺跡で縄文土器をつかって調理の実験をした。コメがない、ミソ、ショウユがない状態でどんなものができるのか。すると意外なことに、スープとパン(団子)という西洋的な料理になった。ヤマブドウのジュースを醗酵させておけばワインまでついたのにと、まことに残念だった。

石皿(三内丸山遺跡)
石皿(三内丸山遺跡)
石皿、磨石、敲石など石器類(三内丸山遺跡)
石皿、磨石、敲石など石器類(三内丸山遺跡)

コメント

  • 私は縄文の深鉢を見ると、南太平洋の食文化バナナの葉の蒸し料理を連想します。サトイモなど大型の葉が常時手に入らない縄文人は、深鉢に食材を入れ、何かで蓋をして、蒸し焼き料理を楽しんだのではないでしょうか?
    いわゆる土鍋なら、あんなに深く無くたって良い訳だし・・・

    クリ・かやのみ・とちのみ等の粉を水で練って、深鉢に入れ、蓋をして残り火でゆっくり蒸せば、周りがこげた、日持ちのする固めの蒸しパンが出来たのでは?

    2013年5月4日 3:11 PM | 菁莪 翁

  • 縄文蒸しパンを焼く時、土器をあらかじめ水に浸しておいて、それからパンを蒸すと、あまりこげずに、中まで火が通らないか?
    それとも土器が割れちゃうか?

    2013年5月4日 3:17 PM | 菁莪 翁

  • 窪み石の研究をしています、窪み石は調理道具ではありません。縄文石器の中でも最も重要な石器です、この石の使用方法の解明こそが、縄文の謎を解くかぎです。 先生の御見解をお聞かせください。

    2015年3月20日 4:32 PM | 酒井洋輔

第20回 やっかいな石器と縄文料理 への3件のコメント

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プロフィール

小山センセイの縄文徒然草

1939年香川県生まれ。元吹田市立博物館館長、国立民族学博物館名誉教授。
Ph.D(カリフォルニア大学)。専攻は、考古学、文化人類学。

狩猟採集社会における人口動態と自然環境への適応のかたちに興味を持ち、これまでに縄文時代の人口シミュレーションやオーストラリア・アボリジニ社会の研
究に従事。この民族学研究の成果をつかい、縄文時代の社会を構築する試みをおこなっている。

主な著書に、『狩人の大地-オーストラリア・アボリジニの世界-』(雄山閣出版)、『縄文学への道』(NHKブックス)、『縄文探検』(中公 文庫)、『森と生きる-対立と共存のかたち』(山川出版社)、『世界の食文化7 オーストラリア・ニュージーランド』(編著・農文協)などがある。

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