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連載企画

世界の"世界遺産"から

第44回 アフリカ大陸西南端、喜望峰に吹く風は。 2013年1月28日

Cape of Good Hope。喜望峰の発見により、南回りの航路は明るい未来が見えた。そう考えればいかにもふさわしく、たいそう美しい表現だとずっと思ってきた。しかし今回、1488年にこの岬を発見したバーソロミュー・ディアスは当初、「嵐の岬」という、船旅にとってはあまり芳しくない命名していたと、恥ずかしながら初めて知ることとなった。このあたりは頻繁に強風にみまわれる。また、大西洋とインド洋がぶつかる海域でもあるため、かつて座礁した船は数知れずといっても過言ではないとか。

実際、小高い岬の突端を目指したのだが、快晴の穏やかな天気にも関わらず、時折、存在感のある風が吹いて、強度の高書恐怖症(なのに冒険好きなハタ迷惑)であるへたれはびびりまくった。とはいえ、地元の名誉のために付け加えておこう。道にはきちんと階段が整備されているし、わたくしは容易に飛ばされるような華奢な娘ではないし、ほかの観光客は笑顔ですたすた登ってらっしゃいました。そんな頼りない被験者の証言で申し訳ないが、場合によっては風速50メートルという驚異的な数字も出るそうだ。

この風が実に気持ち良く澄んでいて、しかもひんやりしている。かつてヒマラヤ山中を歩いていた際、エベレストをはじめ8000メートル級の山々から降りてきた風(もう少々湿り気を帯びていたが)に思いを馳せていたところ、なんと南極生まれとのこと。南極から吹く風。数多の旅人たちが通り過ぎた海を眺めつつ、これまたロマンチックな響きだわと、妄想家がうっとりしたのはいうまでもない。訪れたのは、現地の春先にあたる9月末。アフリカと聞けば「灼熱の」という枕詞が脳裏に浮かぶが、大陸の端っこであるケープタウンや喜望峰周辺は、とても涼やかだったのだ。ことに夜には、薄着でいては凍えるほどの気温に。しっかり日に焼けるほど太陽の光は温もりあふれていて、そのアンバランスが面白かった。

実は喜望峰があるケープ半島の一部は世界遺産に登録されているのだが、歴史的な発見に関連したワケではなく、扱いは自然遺産。先端ならではの個性的な気候と風により、この地域に育つ9000種類にも及ぶ植物の約70%が、固有種であることが認められたから。半島全体の緑の群は、風に負けじとばかりへばりついているかのよう。なかには、夏にありがちな自然発生の火事を経て種子が芽を出すファイターも。彼の地の人々の不屈の精神にも似ていて、感慨深かった。

世界遺産の植物のみならず、実はこのユニークな環境がぶどうの栽培に適しており、最近は日本でもお馴染みのうんまいワインが醸されているのだが、のんだくれがたっぷり満喫した美味に関しては、引き続きまた次回に。

ここが喜望峰の突端!
写真:松隈直樹

子どもたちの服装が気候を物語る。
写真:松隈直樹

世界遺産の番人のような野生のダチョウ。
写真:松隈直樹

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プロフィール

山内 史子

ライター、紀行家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」(小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。2016年6月に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)を上梓。

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