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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第55回 年輪の音楽を聴く 2013年2月12日

作品写真レコードは記憶のための装置だったなあと、その名前の意味を感慨深く思いました。
不思議なレコードを聴いたからです。

子供の頃によく見かけたレコードプレーヤーのターンテーブルで回っているのは 輪切りにされた木です。ちょうどLPレコードくらいにスライスされた梨の木と、樫の木。限りなくアナログでナチュラルなその風景から、アヴァンギャルドなピアノ演奏が流れ出てきます。

よく見ると、アナログに見えるターンテーブルで回り続ける木のレコードの上を走っているのは針ではなく、一筋の光です。アームから照射された光が、針の代わりに木の年輪に刻まれた情報を読み取っている。その情報は、ターンテーブルの下の箱に隠されたコンピューターを通って、ピアノの音に変換されているのです。

ジャズの即興演奏のようにも聴こえる不思議な旋律、実はそれは、一本の木が生まれてから切り倒されるまでの、百年に余る時間をかけて少しづつ少しづつレコーディングされた木の成長の「記録」を凝縮した音楽だったのです。
つまりそれは、紛れもない「木のレコード」でした。

「YEARS」とタイトルされたその作品は、最新のデジタル技術と 若いアーチストの感性から生まれた音のインスタレーションです。時にパンドラの箱にも見えるコンピューターという装置が、木と人の間のコミュニケーションをこのように美しく取り持ってくれようとは私には思いもよらないことでした。

最も心を打たれたのは、そのピアノが織りなす旋律そのもの。
音楽は、必然的に木が切り倒される瞬間から始まります。そこには、ランダムな長い間(ま)をはさんで重く打ち下ろされる低音域の乱打がありました。レコードの中心に向かって光が木を読み進み、だんだんと若木の時代へと遡るにつれ、ピアノの音は高く軽やかになってやがて間(ま)はなくなり、中心に近づくとさらに忙しげに甲高くさえずるように連打されます。

歳月とともに逞しさと威厳を備えていった木のなかに、ひっそりとしまわれていた幼い日の記憶、ガランとした展示室でそれを光がものすごい速さで読み解いてゆく光景を見ながら、一本の木が浴びた光や吹かれた風の感触がゆっくりと私の脳裏に現れてきました。

やがて木の中心あたり、その木が生まれたばかりの頃の記憶に近づくにつれピアノの旋律はさらに高まり、ぐんぐんと枝を伸ばしながら快活に世界の感触を楽しみ、小鳥に触られて驚いたり雨粒があたるのを歓んだりしている幼木と周囲の森の光景を私に見せてくれました。

画像壮大な栗の林を育て、ブナの実りを蓄え、漆を使いこなし、近在の森の樹木一本一本を熟知していたであろう三内丸山の縄文人たちは、人よりずっと長い時間を生きる存在と日々言葉を交わしながら暮らしていたかもしれません。数百年を生きる木の歴史を、祖父から父、父から子へと語り継いだかもしれません。

木が分泌する樹液を毎年大切に採り続ける漆掻き、その名人と言われた人の言葉を思い出します。「くる年くる年、どの木を選んで漆を掻かせてもらうかは、木と相談して決めるんだ。」

音もなく樹皮の中に眠っている木の記憶。それをコンピュータに翻訳をさせて私は喜んでいるのですが、木が知っていることを聞き出すことができないようでは、縄文時代の人の豊かな暮らしは在り得なかったのかもしれませんね。

 

バルトロメウス・トラウベック作品
“YEARS“(部分)

アートと音楽―新たな共感覚を求めてーより

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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