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連載企画

世界の"世界遺産"から

第53回 世界遺産の“和食”を召し上がれ。 その1 2013年11月27日

以前、縄文風の潮汁なるものを料理研究家の先生に作っていただいたことがある。レシピはいたって単純。新鮮な魚介類と藻塩、昆布を水に入れて一緒に炊くだけ。彩りには、これまた縄文的感覚で山菜を。ほかには醤油も酒も一切加えない。なのに、実に旨いっ! 汁も身も、魚介の風味が際だっていて、たちまち完食。三内丸山遺跡からでかい鯛の骨が出土したのを思い出しながらおいしさにひたりつつ、わたくしの胸をよぎったのは「和食とは、引き算の料理である」という、ミシュラン星付き和食店のご主人の言葉だった。

和食がユネスコの世界無形文化遺産に登録される運びとなるようだが、和の世界の料理人さんたちは皆揃って、「足さないことが肝心」と言う。あれやこれやと味を重ねたくなるが、我慢しなさいと。足さないおいしさを日常で実感したのは、弘前のおふくろの味、イカメンチ。市場で売られている野菜たっぷりバージョンも大好きなのだが、居酒屋「土紋」さんのレシピは潔い。材料はイカと玉ねぎのみで、胡椒、卵、片栗粉を加えるのみ。その分、徹底して包丁でたたく、たたく、たたく。イカと玉ねぎの甘味が最大限にふくらんだ幸せに、一升瓶が何本空になったことか。

そんなこんなでシンプルな調理のおいしさに目覚めて以来、「隠し味」という言葉に流されてなんでもかんでも鍋にぶち込むことを控えるように。その結果、唐辛子とて旨味が出ることを知った。旨味もまた、和食の特徴のひとつ。そのまま「Umami」という表現で海外にも広まっているそうだ。旨味の基礎は、ダシ。とはいえ、ダシを取るのは面倒くさい。そうお思いの方は多いのではないか。ところが、昆布に関して、すこぶるかんたんな術がある。年末特別セールとして、皆さまにもお裾分けしたい。

上質な(ここが唯一のポイント)昆布を、水に20分程度ひたす……で、完成。「えっ、それだけ?」と取材先で叫んでしまったほど手間いらずながら、これに豆腐を入れて湯豆腐を作れば、昆布ってこんなに美しい味わいだっのねと、深く感動していただけるはずだ。いつものご近所豆腐も、おいしさ倍増。あるいはそのまま加熱して、少々の塩で調味してもいい。ねぎでも散らせば、本格的なお吸い物ができあがりっ。正月のご準備でお買い求めの際には、ぜひお試しあれ。この昆布の上品な旨味がですね、やわらかな水のおいしさを基盤にした青森の酒コと、すこぶる合いますのよ。むふふふっ、今日も寒いし、湯豆腐で温まろうかな。年末進行という出版界の習わしで、心のなかと机の上は、吹雪の大荒れではございますが。

弘前「土紋」さんのイカメンチは、1日限定10人前でございます。 写真:松隈直樹

弘前「土紋」さんのイカメンチは、1日限定10人前でございます。
写真:松隈直樹

縄文風潮汁と燻製。竪穴式住居なら燻製が自然にできた可能性あり? 写真:松隈直樹

縄文風潮汁と燻製。竪穴式住居なら燻製が自然にできた可能性あり?
写真:松隈直樹

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プロフィール

山内 史子

ライター、紀行家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」(小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。2016年6月に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)を上梓。

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