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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第63回 「縄文人が残したもの観察会」
-ニュータウンで土をこねる- 2013年11月28日

縄文人が残した世界観は深い・・・

ねっとりと柔らかな土粘土の感触が心地よく指に残っています。ピカピカの新しいマンションが立ち並ぶニュータウンのど真ん中、ターミナル駅直結の公民館の講座で、縄文人のつもりになって土粘土をこねる時間を過ごしたところです。

ここに来た皆さんは2週間前に「縄文人が残したもの観察会」に参加しました。本当は、秋の落ち葉が積もる縄文遺跡に足を運んで欲しかったのですが、そうもいかず、ピカピカのニュータウンで「観察」です。スマートな会議用机が並ぶ集会室、私たちはレプリカの土偶やパワーポイントの写真とイラストで 縄文時代に思いを馳せたのでした。

私は小学校5年生で千里に移り住み、ニュータウンっ子になりました。高度成長期の頂点 万国博覧会に沸いていた千里は当時の日本が誇る「モダンライフ」のショーケースでした。日本初の自動改札機を通って駅を出ると、整然と並ぶアパート群の近未来的風景が広がり、パビリオンのようなデザインの郊外型デパートや広い歩道を完備した並木道の風景に、「夢の街」という言葉がぴったりと多くの人が思った時代でした。

景観考古学の研究者が数千年の後にニュータウン遺跡を発掘したら、それが人の住まい方の歴史にどのように位置づけられるのか私は大変興味があります。
東洋初の計画人工都市にはたくさんの幸福もありましたが、いい気になっていた私たちが「人の暮らしに大切だったもの」を幾つも見落としていたと わかってもきました。夢の街に住み続けた世代は老齢化し、独居老人世帯の孤独は数を増すばかりです。

お隣さんと気安く行き来したり、おばあちゃんに子育てを助けてもらったりするのに 幅広の道路とコンクリートの壁はどうもそぐわないみたいだとか、小さなお店や喫茶店やうさん臭い路地が見当たらない街で、若者や子どもはどのように育つのかとか ほんの半世紀ほどの歴史でも 多くの疑問が生まれました。どうやら人は「安全と快適さ」だけで育つものではないらしい・・・と。

さて、今日は、粘土で縄文時代のオマージュ、つまり縄文讃歌を作る日です。
1時間も前にやってきた老齢の紳士2人組は 公民館のイベントで毎日のように顔を見る常連さんだそうです。元気な女性陣や家族連れに混じって、そのふたりが土粘土を捏ねて作り出した土偶は、どちらも何かを想うふうな、静かに哲学的な表情を浮かべて見えました。

縄文の集落を抱いていた流れと山々、それに代わってニュータウンを抱く高層ビルのスカイライン、蛍光灯が光を落とすツルツルの壁や床で 老齢化した高度成長の戦士たちが「心を豊かにする」というお役所の企画で時間を過ごすためにやって来る。
縄文の時代、幾千の経験を積んだ老練な狩人は 若衆が苦労して獲物を追うときには、師であり心の支えでもあったでしょう。ムラに帰れば火を囲んで一族の物語を話す子どもたちのヒーローでもあったでしょうか。

「本当はおじいさんが若者の心を豊かにするんだぞ」・・・とは、そのお二人は言いませんでした。静かに土粘土をこねて、ものを想う表情の人形をこしらえて、「あ~楽しかった」とお礼を言って帰ってゆかれました。

土をこねて小さな人を作り出した古代の人々。実に多様な表情の土偶たちを見ていると、彼らは我々よりずっと広い世界の中で人とその暮らしを見据えていたのかもしれないと思います。山、川、野原、獣、魚、虫、さらには遥かな祖先から営々と続く年月と精霊の物語。時と生命の広大な秩序のなかで 慎ましく暮らす小さな人。

「縄文人が残したもの観察会」・・・それは「縄文人から受け継がなかったもの」を見つける会でもありました。忘れていた豊かな世界の成り立ちの物語が、ニュータウンの老人と子どもに蘇る日が来るように、次回は一緒に歌でも歌いながら土偶作りをしてみましょうか。

ニュータウン公民館でのワークショップ風景

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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