ホーム > 連載企画 > 第70回 オックスフォード Art&Archaeology ワークショップ

このページの本文

連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第70回 オックスフォード Art&Archaeology ワークショップ 2014年7月3日
Ten boundaries 「10の境界」のための地図

Ten boundaries
「10の境界」のための地図

英国とアイルランドのお話は何度かしましたが、あのあたりに行こうとするとかなり不思議なことが起こります。当然、妖精のしわざです。

かの国は前夫の祖先の関係で、子どもたちには一応故郷です。今回もそういうわけで、英国に短期留学するという息子にくっついて家族で久しぶりにおばあちゃんや従兄弟たちに会いに行きました。

するとまた不思議なことが起こりました。「ちょうどその2日間、オックスフォードでアート&アーケオロジーの国際会議があるけど参加しますか?」大阪文化財研究所の岡村さんが参加予定にしていらした日と、オックスフォードのおばあちゃんを訪ねる日がピッタリ一致、かねてから噂に伺っていた壮大なプロジェクトの会合と知ってちょっとゾクゾクしたのでした。

もちろん岡村さんと妖精さんのご厚意に甘えて嬉しく参加させて頂きました。欧州各国を又にかけてアートと考古学を結ぼうとする大プロジェクトNEARCHのミーティング会場は世界最古の大学付属博物館として有名なオックスフォード大学付属アシュモレアン博物館でした。

古墳跡の建物の壁にそっと残されたメッセージ

古墳跡の建物の壁に
そっと残されたメッセージ

メインイベントのおばあちゃんとランチの時間は確保するべきなので、1日目は途中で抜けて、Archaeology and the imaginary と題されたカテゴリーのうちから Art/archaeology activity involving a walk とタイトルされたワークショップには絶対出るべく、おばあちゃんの美しい庭を辞し、走って夕刻の街に舞い戻りました。

ちょうど博物館の正門に参加者が集合しています。まんなかに若い地元のアーチストがいて、粒ぞろいの権威ある考古学者に指示を出し、バケツに入った材料を配っています。
有能な学者たちは5,6人ずつに班分けされて、みんなちょっと戸惑いながら、ちょっと嬉しそうにバケツを片手に街へ出かけてゆきました。

「アーチストは彼女の主観的感性により、オックスフォードの街中で10の“境界”を見つけた。考古学者は彼女が見つけたそれぞれの“境界”が、どのような世界を分けていると解釈するか。街を歩いて現場を発見し、景観や出入りする人々にインスパイアされた解釈が班で共有されたら、もらった紙切れにそれを如何様にも表現し、メッセージとして現場に残してくること。」ワークショップの要旨は、私の理解ではそんなところでした。

たまたま隣りどうしで作った班ですが、私たちの班も他と違わず多国籍かつ年齢層の違う人々でできていました。ハクがある女性イタリア人教授、若いオランダ人研究者、静かなるポーランド人准教授と恩義に熱い大阪魂岡村さんと私めの5人です。

4本の柱に4つの国の言葉で

4本の柱に4つの国の言葉で

10の選択肢から選ばれたのは古墳跡とオックスフォード大学の入学センターが入った校舎でした。まずは街の北にある古墳跡まで、地元学生から聞いたパブの隣の小さな抜け道を通って素早く到着。まだ誰も紙を残していないことを確認すると、古墳跡に建つ建物に入ろうとしますが、そういう類の観光客にうんざりした守衛のおじさんにケンモホロロに追い返されました。権威ある学者たちはそれでもひるまず、その場に(守衛に見つからないように)ローマの名将の言葉を残すこととしました。

紙が和紙に似ていてインクの色も黒かったので誰かが書道で書けば?といいました。
「来た、見た、貼った」としたいところではありますが、ちょっとさえないので岡村さんのご提案で「見参!」と書き残すことにしました。大役を仰せつかりましたので、一応トム=クルーズならぬ英国人の侍も班のサイン代わりに描きました。

次に訪れた大学入学センターは、これぞ古典という風格ある建築で、その前では学生たちがくつろいでいました。18世紀初頭oxford university pressのために設計されたこの建築は当時の街の生活水路を埋め立てた上に立っているそうです。
今は名門大学の文字通り登竜門、かつては大学の研究が世間とコミュニケートするための出版部署として名をはせた本拠地、ここで考古学者たちが見出した“境界”の解釈は、「大学で培われた文化は このゲートを往来しながら、その内と外の凡ての人々に還元されるべきである」というメッセージになりました。

ということで「Culture for the public!」意訳ですが「文化復興」とでもいう言葉が採択され、ギリシャ様式のゲートを象徴する太い4本の柱のそれぞれに、オランダ語、イタリア語、ポーランド語と日本語でその言葉が書かれた小さな紙切れが貼り付けられました。

交通量の多い道路のど真ん中にある司教火刑跡地に貼られた考古学者たちのメッセージ

交通量の多い道路のど真ん中にある司教火刑跡地に貼られた考古学者たちのメッセージ

意気揚々と帰る道で、我々はチューダー王朝の反逆者が火刑に処された場所に配された小さなモニュメントが、交通量の多い道路の真ん中で、他の班が残した「印」で覆われているのを見ました。

あご髭を生やした考古学者たちが、車の間を縫って紙を張り付けて走り去る光景を思うと、何とも微笑ましい気がします。言葉だけではなく、それぞれのお国柄や背景の違いを再発見しつつ、若いアーチストの指示を哲学する学者諸氏の笑顔。ゲームを楽しむ子どものように無邪気に隠れて紙切れを貼り付け、逃走する後ろ姿は、なんだか学問の鎧を脱いだ生身の人とも見えました。

それは芸術的、考古学的、また哲学的な街の時間旅行であり、小さな冒険の共同作業でした。伝説物語の舞台と言われるパブで親しく語り合いながら、アートと考古学の邂逅がもたらしたものを私たちは幸福な気分で感じていたと思います。

アートとアーケオロジーの間をつないでゆくこと、「それはあなたに向いている仕事なのよ」と、妖精が呟いたのは、あれは古墳跡でだったかな・・・

安芸 早穂子 HomepageGallery 精霊の縄文トリップ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

バックナンバー

本文ここまで