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縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第72回 起死回生のアーチスト? 2014年9月15日

CA3A0581職業を書く欄に「アーチスト」と書きいれるのはけっこう勇気がいることです。造形作家とか書いてみても、いささか面はゆい気分はまぬかれません。
職業アーチストと名刺に刻むことで、そう生きることを自分に言い聞かせているのだと言った友人もいます。

そう書かれた名刺を受取る人々の反応も様々です。有名になったアーチストには「光栄です!握手してください!」となるでしょうが、そうではない大多数のアーチストの場合は、「おーアーチストですか」とオウム返しに聞き返されることが多いです。その意訳「信じられない、どうやって食ってるんですか?」「遊んでるんですね?」「変わり者」・・・「いいですね~アーチストですか」の場合の意訳は「カスミを食って生きていられるなら私もそうしたいものです」

そういう眼の中で経験的にアーチスト=役に立たない社会の浮遊物という気分でいた私を含む多くの中堅アーチストに、今年になって起死回生の発見の機会がありました。21世紀の世界が抱える少なからぬ問題にそういうアーチストがカナメの役目を果たせると唱える番組をいくつか見たからです。

まず、NHKBS深夜のテーブルトーク「現代のジレンマ」で、作家の平野啓一郎が「これからの世界ではアーチストがハブになる」と言っていました。アートと考古学の間をなんとか発展的に取り持ちたいと手弁当で悪戦苦闘している私には真に心強い言葉でした。

そして、「ハブ」を作ったアーチストの番組が、つい先週にありました。
それは典型的郊外型ニュータウンのシャッター商店街を舞台に、1人の若いアーチストが始めた物々交換マーケットのレポートでした。

まだ使える不用品を持ち込み、必要なものを持ち帰る。ヘアピンからディナーテーブルまで、近隣の住民たちが持ち込み持ち去る品々がガランとした空き店スペース2店分に並べられた風景は雑然としています。一脚ずつ違う椅子とチグハグなテーブルが、しかし店の前に居間のような不思議な和み空間を作り出し、品定めに来たついでにそこで座って談笑する人々が増え、やがてそこがカフェになり、遂には空虚だった夜のシャッター商店街に「持ち寄り居酒屋」が出現したという報告でした。

ある夜は、介護が必要になった老婦人から寄付された大量の着物を皆で着る着物パーティー、誰かが持ち込んだ大鍋では、カレーを作る持ち寄り夜食会が催され、面白がって若者が参入し、不用品がそれぞれ楽しいアイデアで役に立ち、自分たち自身を不要品と思い込んでいた節のある老住人達にも、気分だけでなく発想も転換できる気の張らない居場所をその店は提供しているのでした。

aki072-2とてもシンプルなアイデアですが、経済効率というワイヤーでがんじがらめになった現代の社会構造をしなやかに逃れ、さらには孤独と貧困が潜む老齢化社会に対しても、お金をかけずに救いとなる素敵な思いつきが声高ではなくゆる~く提案されている感じが新鮮でした。

大らかに楽しみながらやってたら勝手に育ちました、という感じのこのお店の進化は、お金を仲立ちとせずゴミになるものを素材として再利用するという、アートには必然的な精神の賜物、それが、固くムツカシクなってしまった社会の構造を、柔らかくもみほぐし再びつないでいくことになった、というふうに私には見えました。

考古学でも近年はアート&アーケオロジーといわれる新潮流に人気があります。「なぜ今アート&アーケオロジーなのか?」平野啓一郎が言った言葉はそれに呼応し、名もない一人のアーチストがやり始めた小さな運動は実際に、その問いかけに一つの鮮やかな答えを示していると思います。

縄文遺跡を巡る研究でも、膨大多様な分析データの上に固くがんじがらめになってしまった村の世界観、CGのように精巧にできてはいるが血が通っていない無表情な縄文人像が 近年は語られがちではないでしょうか。そのような固い情報の断片をつなぎ合わせて温かい血を流し、時に遊び、気ままもする人間のしなやかさを与えることができるのは、アーチストが持っているイマジネーションと遊びの心なのかなと思ったりします。

あーアーチストですか。いやあ、あなた方がいてくれてよかった!・・・名刺を見てそう言ってもらえる日もそう遠くない・・・と思うのは楽観的すぎるかな。

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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