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連載企画

世界の"世界遺産"から

第68回 沖縄の世界遺産はサァ…… 2015年3月24日

前回に引き続き、沖縄のお話を。世界遺産「琉球王国のグスク及び関連資産群」の要は、文字通りグスクの数々。通常「城」と訳されるが、「斎場御嶽」同様に祈りの場所であったともいわれる。桜で知られる「今帰仁(なきじん)城」はじめ、その多くは琉球統一以前の史跡なのに対し、14世紀末に創建された那覇市の「首里城」は、王国の象徴である。

正殿を前にしてもっとも印象深いのは、なんといっても青空の下で映える、原色の氾濫だろう。壁や柱の真紅、ぎょろり睨む龍を彩る金色や緑、青。目に眩しい景色に、大陸との距離、関係が近かった、本土とは異なる琉球の文化を実感できる。

第二次世界大戦中は、日本軍がこの地に司令部を設けたため、標的となって「首里城」は全焼。さらには戦後、琉球大学が設置され、過去は一掃されたかのように見えた。しかしながら、那覇を一望できる高台に建っていた姿は祖父母や親から語られ、子どもたちは想像をふくらませつつ憧れを抱いたという。現在の「首里城」は1980年代末から復元が行われ、1992年に完成。人々の悲願が実った結果である。

正殿内もまた、煌びやかな様子が再現され、見応え十分だが、古の名残を街中で見つけるのもまた、旅の楽しみ。そのひとつが、宮廷料理だ。優雅な盛りつけに魅せられて口に運べば、いわゆる沖縄の郷土料理と比べてあっさりした味わい。これは肉体労働とは縁のない宮中の人たちが、汗をかかずに、すなわち、塩分をあまり必要とせずに暮らしていたことによるそうだ。

今でこそ、気軽に飲める泡盛もまた、かつてはごく限られた人しか口にできなかった貴重品。中国からの使者のもてなしをはじめ、国事をも彩る存在だったという。この泡盛、彼の地まで旅する機会があればマグロやウニといった、青森でもお馴染みの海の幸とともにお試しいただきたい。脂や旨味が淡く、おそらく青森の皆さまは物足りなく思うはず。ところが、さらりとした泡盛と合わせると、すうっと軽やかに溶け合う。北とはまた異なる至福の旨さである。

美味美酒を堪能しつつ、とある居酒屋で隣席の方が三線をつまびきつつ口にしたやわらかな言葉も、胸に深く刻まれている。
「世界遺産は、沖縄の空気サァ」
軽やかな風やゆるりと流れる時間、そしてたくさんの悲しみを経た心。祈りの場同様、目には見えないものこそが、未来に継ぐべき沖縄の“世界遺産”であろう。

首里城正殿。建物の前に広がる御庭(うなー)は、王への謁見の場。 写真:松隈直樹

首里城正殿。建物の前に広がる御庭(うなー)は、王への謁見の場。
写真:松隈直樹

正殿へと至る石段は、敵の侵入を妨げるため、各段が斜めになっている。 写真:松隈直樹

正殿へと至る石段は、敵の侵入を妨げるため、各段が斜めになっている。
写真:松隈直樹

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プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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