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連載企画

小山センセイの縄文徒然草 小山修三

第55回 鳥と縄文人 2016年3月31日
カササギガン猟 1982年 アーネムランドにて(小山修三撮影)

カササギガン猟 1982年 アーネムランドにて
(小山修三撮影)

カササギガン猟 1982年 アーネムランドにて(小山修三撮影)

カササギガン猟 1982年 アーネムランドにて
(小山修三撮影)

縄文人にとってトリは重要な食料だったはずだ。なかでも重要なのは渡り鳥で、三内丸山遺跡ではカモ・ガン類が80%をこえているとある。しかし、縄文時代のトリに関するこれまでの研究はやや手薄だったような気がする。例えば、縄文人の一年間の生活を見事に図示した小林達雄さんの「縄文カレンダー」にトリはあらわれない。縄文データベースでも獣類や魚類とくらべて鳥類の記載は意外にすくない。トリの骨が脆弱で残りにくいこと、同定も難しいらしくカモ類、キジ類などの類レベルに止まっている。また遺物のなかに明確にトリを捕獲したり調理する専用の道具や遺構がないのも理由の一つかもしれない。しかし最も大きいのは、トリ猟が(原則的に)禁止され、バード・ウォッチングがさかんであることが示すように、愛好家が「食べるなんて許せない」という今日の世相によるところが大きいと思う。

トリ猟といえばアボリジニのムラのことをおもいだす。渡り鳥の季節になると村は活性化する。雨季になると低地の草原は一面に水に浸され、たくさんのトリが集まり巣をつくる。舟をだし卵を集めてまわる。乾期に入ると水が引きトリは小さな沼に密集するので、若者たちが毎日のように水辺を歩き数羽のトリを撃ってくる。盛期には大がかりなファイア・ドライブが行われる。いくつかのムラが協力して、リーダーの指揮にしたがって組みにわかれ、草原に散らばる。一隊が沼の脇の草むらに火をつけると何百羽もの群れが舞い上がり、それを近くの沼で待ち伏せしていた隊が鉄砲で撃つ。見晴らしのよい基地では女たちがさかんに火をおこし、運び込まれる獲物の羽根をむしり、解体して肉を炙る。手伝いの子供たちは歓声を上げながら駆け回る。そして、みんなが満腹して茶を飲みゆったりと時間を過ごす。カンガルーなど群れをつくらない獲物の狩りにはみられない饗宴の場が演出されるのである。もっともこれは当たり年だけのことだという。鳥類は環境に敏感で脆弱だからである。

樹皮画 カササギガンの卵とり(小山修三ほか編 1992『オーストラリア・アボリジニ―狩人と精霊の5万年』より)卵は、危険をおかさないでとれるおいしいごちそうだ

樹皮画 カササギガンの卵とり(小山修三ほか編 1992
『オーストラリア・アボリジニ―狩人と精霊の5万年』より)
卵は、危険をおかさないでとれるおいしいごちそうだ

最近みた論文で山口県では天保年間(約150年前)に記録された野鳥類は約90種、基本的に現在とほとんど変わらない。多いのはキジ、マガモ、ハト、カラス、トビ、ヤマドリ、スズメ、ヒバリ、ツグミ、ウグイス、ツバメなどだが、トキ、コウノトリなどの絶滅種もある。民俗学によるとカスミ網、鳥もち、鷹狩りをはじめ多種のトリ猟が行われていて、かつては日常的に重要な食料であったことがわかる。また、料理書にもツルをはじめとしてトリが頻出する。その起源は縄文時代にあると私は思う。しかし、トリは食料だけでなく、衣服、装身具などの物的証拠にとどまらず、家禽化、季節性や環境の指数となるなどわたしたちの生活と深くかかわっている。今まで見落とされてきたトリの研究が、最近の科学的手法をつかって発展することを期待したい。

(参考文献)
青森県史編さん考古部会 2002『青森県史 別冊三内丸山遺跡』
小林達雄 1996『縄文人の世界』朝日選書
松森智彦・山根麻希・中村大・五島淑子 2016 「『防長風土注進案』の産物記載にみる食品目録(3)-鳥獣類を中心に」『山口大学教育学部研究論叢』65-1、pp.33-44

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プロフィール

小山センセイの縄文徒然草

1939年香川県生まれ。元吹田市立博物館館長、国立民族学博物館名誉教授。
Ph.D(カリフォルニア大学)。専攻は、考古学、文化人類学。

狩猟採集社会における人口動態と自然環境への適応のかたちに興味を持ち、これまでに縄文時代の人口シミュレーションやオーストラリア・アボリジニ社会の研
究に従事。この民族学研究の成果をつかい、縄文時代の社会を構築する試みをおこなっている。

主な著書に、『狩人の大地-オーストラリア・アボリジニの世界-』(雄山閣出版)、『縄文学への道』(NHKブックス)、『縄文探検』(中公 文庫)、『森と生きる-対立と共存のかたち』(山川出版社)、『世界の食文化7 オーストラリア・ニュージーランド』(編著・農文協)などがある。

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