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小山センセイの縄文徒然草 小山修三

第56回 縄文時代の災害 2016年5月10日

熊本地震は4月14日、震度7の激烈なものからはじまり、その後中央構造線に沿うように大分県にまで広がって、人命はもちろん多くの家屋が倒壊しました。すでに一月が経とうとしているのに余震が続き、気象庁はまだ警戒を怠ってはいけないと言っています。重苦しい気分は当分晴れないでしょうが、これは「地震大国」に住む日本人の宿命でしょう。

「縄文時代にも災害はあったのですか」と中学生から質問を受けました。その答えは「もちろんありました」です。
災害といってもいろいろあるのですが、考古学的にわかるものに火事があります。多くの縄文遺跡から、焼け落ちた住居の跡がみつかっています。

そして地震。最近は地震考古学という新しい分野が注目されています。地震の証拠である液状化現象や噴砂の跡だけでなく、広い範囲で地割れや地すべりの跡、長い活断層もみつかっています。縄文時代だけでなく歴史時代の記録を参照することで、実証的な成果を挙げています(寒川旭 1992)。

地震に関係して津波があります。東日本大震災で大きな被害をうけたことが発掘や研究を進めました。東北地方の太平洋側は古くからたびたび津波に襲われているのですが、青森県の三八地方から福島県にかけての海岸線にある480ヶ所の貝塚を調べた考古学者の岡村道雄さんは、縄文人は津波の怖さを知っていてムラを高い場所に作っていた、だからあまり被害を受けなかったのだと考えています。

大規模な被害といえば火山があります。世界的にはイタリアのポンペイ遺跡が有名で、ほとんど一瞬のうちに火山灰に埋まってしまったので、まるで生活にストップモーションがかかったような人々の状態はすさまじく、痛々しいものです。

日本では7200年前の鹿児島県の鬼界カルデラの爆発があります。その火山灰は南九州では1m、北九州、瀬戸内海、近畿地方では20cmもの厚さに積もっています(図1)。雨にうたれると表面がコンクリートのようにかたまるので、植生が大きく変わったのです。その影響で西日本の縄文社会は力を失ったのだと私は考えています。

火山活動は大陸プレートの動きと関係するので、この時代は東日本でも活発でした。例えば東北では十和田火山の噴火が知られています。ところが、三内丸山遺跡では、噴火によって森が壊され疎林や草原になった環境を利用して社会力を伸ばしていったと辻誠一郎さんは考えています。西と東に見られる地域差は火山噴火の規模によるということもできますが、災害に対処する知恵や技術も重要だったと思います。

災害の被害の大きさは人の集まり方(都市化)にかかっているともいえるでしょう。少人数のグループが物をあまり持たず、住居も簡単である狩猟採集社会は、簡単に移動して難を避けることができます。オーストラリアの中央砂漠で調査をしていた頃、時ならぬ大雨で、近代的な都市アリス・スプリングスは洪水で機能マヒをおこしたのに、周辺に住むアボリジニたちは丘に上ることでらくらくと難を避けたという話を聞きました。電気、水道などのライフラインに象徴されるような文明の利器に囲まれた私たちの生活がはたしてすべてなのかどうか、もう一度考える必要がありそうです。

図1 鬼界アカホヤテフラ等層厚線図  出典:桒畑(2013)p.6 図3

図1 鬼界アカホヤテフラ等層厚線図  出典:桒畑(2013)p.6 図3

図2 青森県五戸町中ノ沢西張遺跡の十和田火山灰層(約6000年前)  出典:青森県教育委員会(1990)p.8

図2 青森県五戸町中ノ沢西張遺跡の十和田火山灰層(約6000年前)  出典:青森県教育委員会(1990)p.8

◆参考文献
青森県教育委員会. 図説 ふるさと青森の歴史: 大地から甦った祖先の足跡 総括編. 1990, 216p.
桒畑光博. “火山噴火が狩猟採集社会に与えた影響―鬼界アカホヤ噴火を中心として―”. 九州大学学位論文書誌データベース. 2013.(参照 2016-05-09).
寒川 旭. 地震考古学―遺跡が語る地震の歴史. 中央公論社, 1992, 251p.

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プロフィール

小山センセイの縄文徒然草

1939年香川県生まれ。元吹田市立博物館館長、国立民族学博物館名誉教授。
Ph.D(カリフォルニア大学)。専攻は、考古学、文化人類学。

狩猟採集社会における人口動態と自然環境への適応のかたちに興味を持ち、これまでに縄文時代の人口シミュレーションやオーストラリア・アボリジニ社会の研
究に従事。この民族学研究の成果をつかい、縄文時代の社会を構築する試みをおこなっている。

主な著書に、『狩人の大地-オーストラリア・アボリジニの世界-』(雄山閣出版)、『縄文学への道』(NHKブックス)、『縄文探検』(中公 文庫)、『森と生きる-対立と共存のかたち』(山川出版社)、『世界の食文化7 オーストラリア・ニュージーランド』(編著・農文協)などがある。

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