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連載企画

世界の"世界遺産"から

第80回 久し振りに上野に行ってみませんか。 2016年6月1日

タイトルの「久し振り」が通じるのは、おそらく40歳前後から上の方々ではないだろうか。若い世代では今や、上野駅に行ったことがない人もいそうな気がする。

その昔、北で暮らす人々にとっては、上野駅こそが東京の玄関口だった。あのホームに降り立つのが、晴れがましい第一歩。一方で心が折れそうな状況のとき、線路が故郷へと続く道のように思えたのも記憶している。浪人生として上京したわたくしは、いつも複雑な思いで構内を歩いていた。今でも上野駅を訪れるたび、あの頃の心境が蘇って鼻の奥がツーンとなる。
その上野に世界遺産が誕生する、というニュースが飛び込んできた。フランスの建築家ル・コルビュジエが設計した「国立西洋美術館(本館)」だ。1887年、スイスで生まれたル・コルビュジエは、フランク・ロイド・ライトと並ぶ近代建築の巨匠と称される存在。今回、彼が手がけた7か国17件の建築物が、ユネスコの諮問機関であるイコモスにより世界遺産への登録がふさわしい旨の勧告を受けたのだ。

それまで幾度となく足を運んでいた「国立西洋美術館」で、ル・コルビュジエを意識したのは、館内で彼に関する案内を目にした2年前のこと。柱の間隔をはじめすべての寸法が、西洋人男性の人体を基準とした独自のルールに基づくなど、難しいことはさておき、あらためて空間を眺めれば、素人目に見ても美しいのがわかる。しかも、実に気持ちいいのだ。「無限成長美術館」という構想のもと、コレクションが増えても拡張できるらせん状のつくりもまた、心躍るものがあった。
上野のお宝は、ここだけではない。美術館の正面に建つ「東京文化会館」や近くの「東京都美術館」は、ル・コルビュジエの弟子である前川國男氏の設計。意匠を理解すれば、これまた灯りの並びひとつとっても印象深い。ほか1930年代に完成した「東京国立博物館」や「東京国立科学博物館」、1890年築の「旧東京音楽学校奏楽堂」は国の重要文化財指定。「上野恩賜公園」そのものが、建物博物館といっても過言ではない。今後、「国立西洋美術館」には人が集中するだろうが、ぜひぜひ皆さまには、周辺の景色もご堪能いただきたいのだ。

すっかりぴかぴかになった上野駅の駅舎も、天井を見上げれば美しいレリーフが残る。その一画、「ブラッスリー・レカン」は、アールデコのデザインが施された旧貴賓室を活用しており、うっとり度が高い。日本を代表するフレンチの大御所「レカン」の姉妹店ながら、お財布にやさしいのも嬉しい。そうそう、パンダもどうぞ、お忘れなく! リーリーとシンシン。やっぱり可愛いです。公園近くには、「ぽん多」というとんかつの名店があり……。あれこれ考えていたらむずむずしてきたので、ひと足お先にとんかつ食べに、否、美を愛でに上野に行ってまいります。

「国立西洋美術館」は1959年の開館。 写真:松隈直樹

「国立西洋美術館」は1959年の開館。
写真:松隈直樹

上野駅のレストラン街あたりの天井。写真:松隈直樹

上野駅のレストラン街あたりの天井。
写真:松隈直樹

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プロフィール

山内 史子

ライター、紀行家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」(小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。2016年6月に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)を上梓。

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