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連載企画

小山センセイの縄文徒然草 小山修三

第57回 野菜ぎらい 2016年6月10日

「野菜を食べましょう、健康のために」という言葉が風潮となって、最近は食卓に野菜(葉菜)が出るようになり、洋風レストランなどではふつうに野菜サラダがついてくるようになった。

先日アメリカの友人がやってきたので、奈良、四国、福島などを案内したが、日本食はおいしいと言いながら、シーザーサラダのような多量の生野菜がでないのが不満そうだった。高エネルギー、高たんぱく質、高脂肪のアメリカの食が健康(美容も)に悪いということがわかった反動なのだろうか、野菜サラダはアメリカ人の必需食と化しているようにさえ見える。それはきっと日本にもおよぶことだろう。

わたしは野菜がきらいだ。葉っぱをバリバリ生でたべているとお腹をこわしたチンパンジーになったような気がする。あれはオヒタシとか薬味にちょびっとあれば十分だ。アーネムランドのアボリジニたちは「草をイヌが食べるか?」と言って見向きもしない。彼らは食べ物には必ず火を通すという原則をきっちりと守っているからである。そういえば、日本でもかつては煮るか漬物で、生食はダイコンおろしくらいだった(井戸水で冷やしたトマトをよくかじっていたが、あれは果物のつもりだった)。熱を加えてアクを抜いたり、柔らかくしたりするほか、とくに日本の農業が肥料に下肥を使っていたので衛生的にも賢明な策だったと言えよう。

現在、町のスーパーに行くとトマト、ホウレンソウ、ハクサイ、キャベツが山と積んである。それは朝市や小さな八百屋での並び方と比べるとすこし様子がちがう。これらが大量に出回るのは、第二次大戦後の食の西洋化と、市場経済に向けて量産を旨とする農業生産の構造変化によるものであろう。私自身の経験を振り返っても、地方の家庭の食卓にこれらがふつうに出るようになったのはごく最近のことなのである。

野菜類は百数十種、数え方によっては数百種あるとされており、日本での野菜食の歴史は魏志倭人伝から始まり、万葉集、古事記、延喜式をへて江戸時代の農書や地誌にかかれたものまで膨大な記録がある。その移り変わりは意外と激しく、新しいものを取り入れていった農民の力に驚く。だから私は原産地がどこかということにあまりこだわる必要はないと思う(否定するわけではないが)。一時は盛んに栽培されていたものが野生化してしまった例も多いからである。アフリカから来た嫁が里山を歩いていて、日本人はこんなに有用なものをなぜ利用しないのかと言ったという友人の言葉を思い出すからだ。

栽培植物は野生植物から選び出されたものである。かつては、農耕は弥生時代から行われたとされ、作物はすべて大陸から来たと考えられていた。しかし縄文時代からウリ(ヒョウタン)、エ(荏)などが出土していて困っていた。しかし、近年の発掘の精密化と技術革新、それに考古学以外の分野の研究者の積極的な参加によって日本でヒエ、ソバ、マメ(大豆、小豆)が独自に栽培化されたことがほぼ確実となってきた。まだ確証は出ていないが、カブやナタネなどBrassica(アブラナ)系の存在も近い将来明らかになるだろう。

縄文時代の主な調理法は、すりつぶしたデンプンや肉類も入った団子状のものを、水を張った大鍋(深鉢)でコトコト煮るというもので究極のスローフードだったようだ。その中に少しは野菜も入っていただろう。それらは焼畑や住居のまわりに自生していたり、ほそぼそと栽培されていたものだろう。古代食に分類されているノビルやハジカミ、サンショウのような刺激の強いものがおおかったのではないかとひそかに考えている。

香川県観音寺市豊浜町のレタス(Hamilton,Wikipediaより)

香川県観音寺市豊浜町のレタス(Hamilton,Wikipediaより)

シーザーサラダ(Geoff Peters,Wikipediaより)

シーザーサラダ(Geoff Peters,Wikipediaより)

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プロフィール

小山センセイの縄文徒然草

1939年香川県生まれ。元吹田市立博物館館長、国立民族学博物館名誉教授。
Ph.D(カリフォルニア大学)。専攻は、考古学、文化人類学。

狩猟採集社会における人口動態と自然環境への適応のかたちに興味を持ち、これまでに縄文時代の人口シミュレーションやオーストラリア・アボリジニ社会の研
究に従事。この民族学研究の成果をつかい、縄文時代の社会を構築する試みをおこなっている。

主な著書に、『狩人の大地-オーストラリア・アボリジニの世界-』(雄山閣出版)、『縄文学への道』(NHKブックス)、『縄文探検』(中公 文庫)、『森と生きる-対立と共存のかたち』(山川出版社)、『世界の食文化7 オーストラリア・ニュージーランド』(編著・農文協)などがある。

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