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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第89回 JOMON若者ブレイクスルー 2016年7月6日

絵ブレイクスルーってなんだ? よく言うのは、壁にぶち当たってしまった若者が、それを乗り越えるっていうか、穴をぶち抜いて通り抜けるイメージでしょうか。

では、縄文時代の若者がぶち当たった壁とは、どんなものだったでしょうか?

今も昔も、集落で社会的生活をしていれば当然、人間関係をめぐるブレイクスルーは免れなかっただろうと思いますが、今も変わらない、そんなしがらみより、私の頭に浮かぶのはむしろ、もっと直接的でシンプルな個人的な体験なのです。若者が、自他ともに一人前として自分を認めるために、自分も納得できる、そのシンプルな証を獲得するために、必死で挑んだ試練の体験が思い浮かびます。

若者たちは、マンモスハンターとして、雪原にヘラジカを追い、縄文時代の狩人であれば、あきらめずに何日も追いかけたクマを仕留めたのかもしれません。長い旅、険しい道、立ちはだかる壁をブレイクスルーし、一人前と認められるために、ひたすら挑み続ける、長く、孤独で、畏れに満ちた体験。。。そこには個の身体が、広大な自然世界と対峙する姿があったのではないかと思います。

そのような体験は、文明の進歩とともに、いつしか若者から奪われてきたように思います。底知れぬ世界の中の小さな個として、時に弱く、時に強く、崇高な魂の存在感を体験し、万物の循環の中に在る自分を発見し、瞬時に変わる世界と自分との相対的な関係を知る。そんな神秘的な修行の時間は、いつのまにか、他者をだし抜く、人間どうしのぬき差しならない競争にすり替えられてきました。

現代の暮らしは、長い時間をかけて、私たちが築きあげてきた理想であったはずでしたが、この世界では若者はブレイクスルーの体験無しに、閉じこもったり、暴走したり、ねじ曲がったり、世界に関心を持たなくなったりしているように見えます。

他の哺乳類を見渡すと、おおむねよき子孫を残すために有能で体格の良いパートナーを獲得することが人生最大の関門であり、それこそはブレイクスルーの本道であるようにも思われますが、現代の若者の間では、異性との交遊などは面倒で、無駄にエネルギーを使う、不要な体験のひとつになっているようにも思われます。

実のところ、人間の若者は、自分たちでも気がつかないところで、苦悩しているように思えます。若者が若者らしく生きることができた、一瞬の花火のような1950年60年代。若者が世界に台頭し、ロックとヒッピーと平和思想と闘争論と、愛と憎しみと怒りと喜びが謳歌され、幻のように世界を席巻した、ほんの数十年が過ぎ去り、ヒーローヒロインたちが死に、思想と理想が死に、若い身体はもてあまされるようになりました。

若者になる前の子どもらを、護るものが増えすぎたのには違いありません。家や物だけではない、守りすぎる親、守りすぎる社会は、広大な外の世界に向き合うことなどしなくなり、もっと、もっと自分たちを守るために、世界を都合よく変えることだけに力を注いでいるようです。

安心に護られた特別区を知ってしまった人間は、この私たちは、自分の息子や娘らを、サバンナに放り出したり、大雪原を一人歩かせたりは、もう絶対にしないでしょう。
若者は、そんな世界では、本当の姿で生きることができない生き者らしい。
怖くないから、おもしろくない。

私たちが、私たちの暮らしが、護りをひとつでも捨てさえすれば、若者がひとり、息を吹き返すのかもしれないと、ふと思います。
子を愛する親が、護ることを捨てる。するとまたひとり、何かを求めながら世界へ旅にでる若者が立ち上がる。
現代の若者が一人前になり、その魂が救われるためのブレイクスルーは、実は若者にあるのではなく、私たち、子をもつ親の側にあるのだろうかと思う今日この頃です。

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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