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連載企画

小山センセイの縄文徒然草 小山修三

第58回 縄文の祭り―御柱祭りを手がかりに 2016年7月11日

岡本太郎は御柱祭を縄文の祭りだと喝破した。木落しの難所で乗ると言って聞かないので、みんなで引きずりおろしたというエピソードがあるそうだ。

柱をめぐる祭りは世界の民族に広くみられるもので、北米大陸のトーテムポールやヨーロッパのメイポールなどがすぐさま思い浮かぶ。民族学的には死と再生、豊穣、子孫繁栄などの人間社会の深層をあらわす宇宙観の表象としてとらえられていて起源に言及することはあまりない。始まりを言うならばこの祭りは文献では平安末までたどれそうだが、神話伝承も考えに入れれば古墳時代まで視野に入る。さらに、考古学では縄文時代の大木を立てた跡が数多く見つかっているので時間的な根は深いことがわかる。

御柱祭を現場でみると、粗削りで原始的というか、縄文的なものがたくさんある。柱を色や彫刻で飾らない、人力で運び、危険な木落しや川渡りをやる、そして、木遣り唄(あの甲高い声は、もとは谷の向こうに届く連絡用だったと民俗音楽学を研究する小島(こじま)美子(とみこ)さんは言っている)、オンベ(紙や布でなく木を薄く細長く削ったもの)、酒食の大盤振る舞いなどで、この祭りの骨格は世界に共通していることがわかる。その一方で新しい要素もたくさんある。進軍ラッパ、華美な装束、安全管理の厳しさ。伝統的とされる祭りも、社会変化や人々の好みを受け入れながら変容していくことは、私自身がアボリジニの村の祭りでいたく感じたことである。

そんな観察を整理して画家の安芸早穂子さんに縄文時代の祭りを絵画で復元してもらった。派手過ぎるといわれたのだが、「縄文人が望んだような」興奮とにぎわいが強調されているのは、これこそが祭りの基本であると考えたからだ。機能優先主義の現代人が、縄文人があんなに長くて重いものを運べるわけがないという気持ちはわかる。1980年代に北陸地方でつぎつぎと大きな柱群が見つかったとき、考古学者は、縄文人は5,6人で引っ張れるとか、雪の上を滑らせるとかの省エネ型の案を出していた。ところが石川県金沢市のチカモリ遺跡で水槽の中に保管されていた巨木柱の柱根の縄かけの穴と溝は御柱のしかけと同じだったし、長く重い柱を人力で運ぶことができることは、のちに青森県青森市の三内丸山遺跡で六本柱(大型掘立柱建物)を復元したときに実証できたと思っている。

御柱祭にはもう1つの不思議がある。ふつう日本の祭りは毎年おこなわれるのにこの祭は7年目ごとに一度(寅年と申年)という長い間隔があることだ。そこには社会をささえた生産構造があると考えられないだろうか。弥生時代からはじまった水田稲作は田起こしの準備から収穫までが一年単位である。これに対し、縄文時代の食は畑作(とくに焼畑)に支えられていたとすると、イモ類など年単位ではない作物が多いし、森を焼いてつくる畑も利用できるのは5年くらいなので地域を一体化する必要はさほどなかったであろう。それでも、地域交流はムラの存続に不可欠なので、長い緩やかな縛りに収斂していったのだろう。準備期間の長さは、ゆっくりと多様なかたちの集団の意見をまとめ、団結を固める。強烈な劇場性はこの祭りの特徴であり、多くの人を集める仕掛けなのである。稲作文化に巻席されたように見える日本文化の基層にある東日本の縄文文化の底力を御柱の祭りに感じるのは私だけだろうか。

安芸早穂子さんの絵 出典:『縄文人の家族生活』(週刊朝日百科 日本の歴史37 原始・古代4)1986

安芸早穂子さんの絵
出典:『縄文人の家族生活』(週刊朝日百科 日本の歴史37 原始・古代4)
1986年

 

御柱祭 2016年 (里曳き) 撮影:坂間ユウジさん

 

御柱祭 2016年 (一の柱)撮影:原直正さん

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プロフィール

小山センセイの縄文徒然草

1939年香川県生まれ。元吹田市立博物館館長、国立民族学博物館名誉教授。
Ph.D(カリフォルニア大学)。専攻は、考古学、文化人類学。

狩猟採集社会における人口動態と自然環境への適応のかたちに興味を持ち、これまでに縄文時代の人口シミュレーションやオーストラリア・アボリジニ社会の研
究に従事。この民族学研究の成果をつかい、縄文時代の社会を構築する試みをおこなっている。

主な著書に、『狩人の大地-オーストラリア・アボリジニの世界-』(雄山閣出版)、『縄文学への道』(NHKブックス)、『縄文探検』(中公 文庫)、『森と生きる-対立と共存のかたち』(山川出版社)、『世界の食文化7 オーストラリア・ニュージーランド』(編著・農文協)などがある。

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