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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第92回 パリコレ発掘とニューモード博物館 2016年12月19日

パリコレというと、ランウェイを颯爽と歩くモデルが着る、最先端モードのドレスを思い浮かべますが、同じコレクションでもパリの人類博物館Musée de L’Hommeが収蔵するコレクションは、その正反対、過去の遺物の群れといってもいいものたちでした。

近世の君主らによる珍品収集に始まって、植民地領主国時代、西欧人を頂点とする進化論の実証とされた、異人種文化に対する上から目線「コレクション」など、博物館の歴史そのものを体現するように、ここは人類学史の負の遺産を抱える博物館としても有名でした。

ところが、近年、どちらかと言えばやはり負の影響を孕む事態をきっかけとして、この旧態依然だった博物館は、最先端をゆく現代的博物館へと生まれ変わったのです。
負の事態とは、その収蔵品のうちから、芸術的価値を認められた多くの、最も華やかな展示物を失う、という経験でした。シラク元大統領によって創設されたMusée Quai Branlyは、民族工芸の傑作や、伝統的な美術品を展示物とした新しい”ミュージアム”をコンセプトとしてオープンしましたが、その多くの展示物は、人類博物館の収蔵品から、芸術的と認知されている品々を大量に移設したものでした。

地味で暗い影を引く多くの過去の展示物と共に残された人類博物館に、足を運ぶ人は激減、成り行き上ではありますが、博物館は全面改装、総展示替えのため、その後6年間休館したそうです。世界でも指折りの古びた博物館は、しかし、この危機をチャンスへと変えて、その収蔵品を再び展示する意味を考え抜き、驚くべき現代性をもった「問い」を放つ、スタイリッシュな博物館へと変貌を遂げたのです。

広大な収蔵庫を「再発掘」した、考古学者、人類学者、民族学者、哲学者、アーチストやエンジニアらが、現代的な解釈と、今の世界に問いかける目線で、古びた遺物を選び直し、並べ替え、最先端の展示要素へと変貌させる。「ありあわせのもので発展的なリ・アレンジ」をしたことを、フランス流にエスプリを効かせていえば、「未開の文化」にあった、エコで持続可能な「循環の思想」に、西欧の都パリの権威ある博物館が、ようやく追いついた。。。。とも言えるでしょうか。

そのエスプリをふんだんに発揮した展示について 私の感動を書くとおそらく際限がないので、ここでは入口の話だけをします。文字通り、入り口ホールにただ1つ据えられた、ある部族の装束と小さな記録映像の展示です。

その展示が、それを見る人々に、この博物館の過去と現在を静かに思い起こさせ、ただその衣装と映像がそこにあることだけで、過去の負の影を、豊かな共感と感謝へと変えていることに、私はまず、深く心を打たれたからです。

密林の渓谷に暮らすらしい、その種族のシャーマンの装いは、木の皮や枯葉や鳥の羽でできてはいましたが、美しく威厳に満ちた立派なものでした。(フランス語の解説は解りませんでしたが・・・)。その横に動画が流れています。その動画は、この博物館の再生のシンボルとして展示されたその装束が、遠い熱帯の僻地の、小さな部族から贈られたものであることを伝えていました。荘厳な伝統的イニシエーションを経て、細心の注意と、最大の敬意と威厳をもって、部族の記憶を織り込み、魂を込めて、その装いが作り上げられてゆく過程を、映像は記録していました。やがて出来上がったその装束は、遠い博物館へ旅するために、丁寧に箱にいれられ、族長から、かしこまってそれを戴く研究者に手渡され、部族の皆に見送られて故郷を後にしたことも、そこには記録されていました。

この博物館の収蔵品の負の歴史を乗り越えて、新しい出発のため、まず置かれた展示は、そういうものでした。異文化への敬意、価値観の違う人の暮らし方への敬意、そういったものが、この展示ケースひとつで、しみじみと見て取れました。

古代の人の文化や暮らし方を考え、復元イメージとして描こうとする時、実はこれとまったく同じような映像が、私の心に現れていたことに、私はそのとき、ふと、気がついたのでした。

人類の博物館、そのコレクションの「リ・アレンジ」は、おそらく永遠に完了することはないでしょう。その時代、その世界で、人間とは何か?を考え抜く試みに、終わりはないことと思います。ただ、どの時代にいても、世界に散らばる人々がともに、過去の負の遺産を乗り越えて、それぞれの多様性を敬いあえる目線を、忘れずいたいものだと思います。

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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