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連載企画

世界の"世界遺産"から

第88回 貴重な生物と美酒待つ奄美大島へ。 2017年1月24日

雪のない正月から一転、大寒波襲来を受けて青森県内は真っ白に染まったようだ。というわけで今回は、心ばかりながら温もりある旅の記憶をお届けしたい。鹿児島県奄美大島である。

沖縄県北部、西表島、徳之島とともに、奄美大島をはじめとする奄美群島には独自の生態系が見られるとして、世界遺産の暫定リストに記載されている。冬こそ多少なりとも寒さを感じるものの、東北では秋深まる10月まで泳げる南国の楽園。空港に降り立つとむわんという熱気を帯びた空気に包まれるが、風はいたって軽く、日陰に入れば気持ち良さが立つ。

上空から見れば、島は緑一色。ほとんどを濃密な森が占めている。そのひとつ、「東洋のガラパゴス」とも呼ばれる「金作原(きんさくばる)原生林」では、傘のように葉を広げるヒカゲヘゴやソテツなどが縦横無尽に生い茂っている、まさしく本土にはない景色が見られる。奥に潜むのは、アマミノクロウサギ。あ、ハブもいます!

海岸近く、日本最北限のマングローブの原生林が広がるエリアでは、冒険気分で川をカヌーでこぐ楽しみがある。マングローブとは特定の植物ではなく、干潮時に海水と淡水が入り交じる河口域の森のこと。夏の夜明け、束の間に咲くサガリバナや、この島にしかいないリュウキュウアユなどが生息している。

自然の生態系に加え、この島ならではのものがある。奄美諸島だけで作られている黒糖焼酎だ。すっきり、コクあり、骨太など個性は多様で面白く、しかも料理を選ばない万能選手である。ロックやソーダ割りはもちろん、旅人が見逃せないのは酎ハイ。パッションフルーツやグアバなどを使った酎ハイがふつうにメニューに並び、これがまた、実に旨いっ!際限なく呑めてしまう、危険な存在なのである。

あれこれ縁あって実は奄美には青森ファンが少なからずおり、毎年、雪用の長靴を履いて弘前を訪れるのを楽しみにしている。その目的は、青森の美味美酒と雪かき。未来には奄美の子どもたちを連れて、「雪」の研修旅行ができたらいいとも話す。北の人間がまぶしい太陽に憧れるのと同様、南の方たちは雪景色がたまらなく嬉しく、子どものように無邪気に喜ぶ。

さらに興味深いのは、彼らが弘前で聞く津軽弁に親しみを感じていること。奄美の方言で私は「わん」、あなたは「なん」。単語だけではなく、リズムも似ている気がするという。おそらくはるか昔、同じ言葉を話す人たちが北へ、南へとそれぞれ歩みを進めたのだろう。もしかしたら、遠い、遠い、親戚?

青森の皆さまが奄美大島を訪れたなら、世界遺産候補の自然にも増して、意外な発見があるかもしれない。

マングローブのトンネルをカヌーで行く筆者(翌日は筋肉痛)。
写真:松隈直樹

南国の景色で雪国の皆さまの心が、温もりますように。
写真:松隈直樹

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プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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