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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第94回 縄文の人々と世界 ―私の復元イメージの中の縄文人― 2017年3月28日

山の風 ユリイカ臨時増刊『縄文 JOMON』より 2017,3月号

縄文の狩人たちは、自分たちの暮らしを守るため、またエコで合理的な狩りの手段として、集落周辺にやってくる獣に罠を仕掛けていたそうです。

発掘調査で出土する落とし穴は、里山の獣たちの生態を知り尽くした彼らの知識を思わせる、それぞれの動物の習性別に使い分けられた巧みな装置です。

野を掛けるシカは、その細い足を引っ掛けて、つまずかせるための細く長い溝が、下り斜面の下あたりに幾筋も、刻まれてありました。
文字どおり猪突猛進のイノシシを狙うのは、枯れ枝などで隠した大きく深い穴で、穴底には、先を尖らせた杭が何本も打ち込まれていました。暴れてストレスを受けた肉が硬く、まずくならないように、即死させるための、それは装置だったかもしれません。

現代人は長きにわたり、古代の人々の暮らしを勝手に見くびってきたわけですが、私たちの方に見つける眼と感性さえあれば、そこここの遺構や遺物、花粉やDNA分析からも、読み取れる縄文の人々の知恵ある営みが、復元イメージの中にも姿を現わすはずです。

先日富山県であった植物考古学の専門家を招いてのフォーラムでは、縄文の集落とそれを取囲む植生環境について、集落内は利用価値の高い植物を、植えたり伐採から残して増やしたりした、密で多様な植生、しかしその集落から野生の森までの間の部分は、見通しよく刈り込まれた野原のような景観だったと考えるのが合理的との発表がありました。
山林と集落の間に見通しの効く緩衝地帯があることで、クマなどの獣は身を隠すことができなくなって集落へ近づくことを自然と警戒し、またそこに住む人は、それら山を下りてくる獲物を容易に見つけることができる。おそらくは、私の祖父世代であればだれもが知っていたであろう、そのような知恵は、急速に忘れられ、するとそれを見通したかのように、イノシシたちは町へ降りてくるようになり、私たちは、なすすべを知らず、うろたえています。

海山の祀り ユリイカ臨時増刊『縄文 JOMON』より 2017,3月号

何世紀にもわたり手を入れた里山に囲まれ、何世代もが言い伝えてきた伝統知に裏打ちされて、四季折々の山河の恩恵にあずかる営みは、ほんの数十年前まで受け継がれ、そしてあっという間に忘れ去られました。 縄文時代の復元イメージを描き出そうとするとき、現代の私たちから急に遠くなってしまたモノ、なかなか思い出せないものは、絶望的に多すぎるのかもしれないと思う時があります。

例えば、その野原の緩衝地帯は、縄文の集落と外の世界の間に在る第一の境界であったのだろうと思います。犬は、怪しい影を鋭敏に見つけると、吠えたてて知らせ、勇敢にそれらに飛びかかっていったかもしれません。常に忠実で、時にはその身体を投げ出して人を守ってくれる犬。縄文の人々が犬を大切に埋葬するのは、人と共に生きるこの小さな獣が、人の世界と、それ以外の野生の世界を取り持つ大切な役割を担ってくれていることを、深く知っていたからではないかと思います。
今では人と同じ衣装を着せられ、メタボの病で獣医通いをさせられている犬たちにも、そんな時代があったと考えると、今の暮らしが犬たちへの冒涜であるかのように思える時もあります。

人と犬は、その第一の境界を超え、里山から深山へ、さらにいくつかの境界を越えて、異界のモノたちの土地へと入りこみ、そこに暮らす獣たちの領域を犯して狩りをしたのでしょう。大きなクマや立派な牡鹿を追い立てる犬たちに指図しながら、縄文の狩人たちが心に負っていた畏れとは、畏怖の念とは、どのようなものだったでしょうか。

先月、ユリイカが2017年4月臨時増刊号で『縄文 JOMON』と言う号を出すというので、絵を4枚、好きに描いて下さいと言われました。そのような時、まず 私の脳裏にうかぶ縄文の人々の姿は、鋭敏な皮膚感覚と、震える魂をもって、広大無辺な世界と対峙している、小さく、畏れに満ちた人間の姿なのです。

なお、今年度をもって私の連載を終了させて頂くこととなりました。長い間、御愛読ありがとうございました。

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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