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連載企画

世界の"世界遺産"から

第98回 神話の世界にふれられる宗像の世界遺産 2018年1月24日

昨年末、2017年7月に世界遺産登録を果たした、「『神宿る島』宗像(むなかた)・沖ノ島と関連遺産群」の要、宗像大社を訪ねる機会に恵まれた。

宗像大社は沖ノ島の沖津宮(おきつみや)、大島の中津宮(なかつみや)、九州本土の辺津宮(へつみや)の三宮からなり、それぞれにタゴリヒメノカミ、タギツヒメノカミ、イチキシマヒメノカミを祀る……。との紹介文にふれても当初は、はて、どなたでしたっけ? とピンとこなかったのだが、ちょうど同時期に読み返していた「古事記」にその名を見つけ、これぞ神さまのお導き的な旅の始まりとなった。

かいつまんで申し上げれば、三女神はアマテラスとスサノオの誓約(うけい)により生まれた御子神。「歴代の天皇のまつりごとを助け、祭祀を受けられよ」という天照大神の神勅を受け、宗像の地に降臨したという。

宗像大社辺津宮の境内奥に位置する「高宮祭場」は、その降臨の地といわれる場所。正直なところ半信半疑の不敬な思いで向かったのだが、木々が守るかのように茂った祭場は、心鎮まる不思議な静寂に満ちており、気持ちの良い風が吹くなか、時間を忘れてたたずんでしまった。ここで捧げられた祈りの積み重ねが、気配として残っているのか……。なににしても、感慨深いひとときとなった。

一方で興味津々となったのは、島そのものが御神体である沖ノ島から出土した奉献品の展示。指輪や陶器、銅鏡など4~10世紀頃の品々の多くが、国宝に指定されている。なかでもササン朝ペルシャ製のグラス片には、妄想スイッチオン! どのような冒険と困難を経て、このグラスが遠い東の国まで届けられたのだろうかと、しばし心を過去へと飛ばした。

宗像はかつて、大陸へとわたる海路の拠点。三女神はいにしえの頃から、海の守りとして崇められてきた。そんな話をふまえつつ地図を眺めると、これまた胸がときめくことに。というのも、九州本土、壱岐、対馬が、沖ノ島を基点としてほぼ等距離にあるのだ。まるで計算されたかのような美しい配置は、まさしく神業。イザナキ、イザナミの国生みに思いがいたる。

神話は史実ではないかもしれないが、現実とのつながりがなにかしら見つかると面白い。もしご興味があれば、「古事記」のページをめくっていただきたい。神さまたちは暴れん坊だったり、惚れっぽかったり、わたくしのようにのんだくれであったりと、意外にもやんちゃ。親近感を覚えるほどの魅力を秘めている。

三女神が降臨したといわれる、宗像大社辺津宮の高宮祭場。
写真:松隈直樹

 

辺津宮、中津宮、沖津宮には、アマテラスからの神勅が掲げられている。
写真は中津宮。
写真:松隈直樹

プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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