小牧野遺跡は、縄文時代後期前葉(約4,000年前)につくられた環状列石(ストーンサークル)を主体とする遺跡です。
環状列石(直径約55m)は、付近の「荒川」(堤川上流)から運ばれた約2,900個もの河原石によって、縦横交互に繰り返し並べられており、全国的にも非常に珍しい立体的な構造となっています。
さて、このような環状列石の石を運ぶためには、どのような方法で行われ、いかなる道具が必要だったのでしょうか?
基本的な方法としては、石置き場から環状列石の構築場所まで石を手で持って運んでいることが容易に想像できます。また、低湿地のような遺跡からは、縄や棒、編み物といった遺物が出土しており、これらを組み合わせた運搬具の使用も考えられます。

真上から見た環状列石
国内外の遺跡では、石の運搬方法はもとより運搬に関わる組織の規模を推測するための実験が行われています。
例えば、メキシコのオルメク遺跡では棒に吊られた2トンの石を35人で担ぐ実験が行われ、イギリスのストーンヘンジでは橇(そり)に載せた約2トンの石を32人で曳き、コロを用いた場合には24人で移動させています。イースター島では、10トン近くものモアイ像を載せた橇を180人で運んだといいます。
日本国内では、大阪府藤井寺市の三ツ塚古墳から出土した全長8メートルをこえる大修羅(しゅら:木製の橇)の発見を機に、14トンの石を載せた修羅の牽引実験が行われ、曳き手36人で15秒間、10メートル弱を移動することができました。
小牧野遺跡では、背負梯子、モッコ、橇の3つの運搬具を用いて、石の採取地である荒川との間に設定した2つの運搬経路で実験を行いました。
10キログラムほどの石を載せた背負梯子では、距離にして400メートル弱、勾配約15度の急斜面(経路2)を15分で登ることができました。小牧野環状列石では、推定10キログラム以下の石が6割以上を占めており、この程度の重さの石を運ぶには背負運搬で十分と思われます。
- 背負梯子による運搬
- 実験用運搬経路
実験で最も威力を発揮したのが担ぎ運搬で、モッコにとり付けた網に約30キログラムの石を載せ、1キロメートルほどの緩斜面(経路1)を2人で快調に運ぶことができました。小牧野環状列石の石は、推定30キログラム以下が9割近くを占めていることから、モッコを利用することで大半の石を比較的容易に運ぶことができるのです。また、重さ約90キログラムの石を載せた橇を4人で地曳きした実験(経路1)では、1時間ほどかけて目的地の環状列石まで到達しました。
- モッコによる運搬
- 橇による運搬
下の表は、小牧野遺跡の運搬実験の結果と、そこから得られたデータを基に環状列石の推定運搬時間を求めたものです。
仮に、現代の基本的な労働時間(8時間)で、運搬日数をみた場合、橇(4人)では約48日、モッコ(2人)では55日、背負梯子(1人)では64日分に相当する作業量となりますが、1日8時間というのは、あくまでも現代の標準的な労働時間であり、縄文時代の衣食住にかかる生計活動の時間配分を考えても、これだけの作業量を短期間、あるいは期間中毎日、重い石を数往復も運ぶことは非常に考えにくいです。
環状列石の完成を目指した石運搬や配石作業などの一連の事業を行うためには、大勢の人間を的確に動かすことができるような指揮者、あるいは長年に渡って培われた組織力が必要であるとともに、期間中の食糧および調理に伴う人員など後援の人々の協力も不可欠です。
このように、多くの人々が参加した環状列石の石運搬は、組織の結束を強める役割も果たしていたのかもしれません。それは、環状列石に人々が集まって行う祭祀にも通じることでしょう。
運搬方法 |
参加 |
運搬距離 |
平均 |
重量(kg) |
実験による |
環状列石の |
||
石材 |
運搬具 |
計 |
||||||
木橇 |
4 |
995.0 |
5 |
92.9 |
32.2 |
125.1 |
70.0 |
23,399 |
モッコ |
2 |
995.0 |
5 |
31.6 |
4.7 |
36.3 |
27.0 |
26,533 |
背負梯子 |
1 |
387.6 |
15 |
15.0 |
2.5 |
17.5 |
15.0 |
31,054 |
※環状列石の推定運搬時間=環状列石推定重量31,054kg/運搬石の重量×実験による運搬時間
(児玉大成:青森市教育委員会事務局文化財課)