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連載企画

縄文遊々学-岡田 康博-

第32回 地下を見せるということ 2010年7月6日

ほとんどの縄文遺跡は地下に埋もれています。これが最大の特徴といってもいいのかもしれません。どんなに価値の高いものが地面の下にあると説明しても、復元や展示での説明や解説がないとよほどの専門家でない限り理解することは困難です。世界遺産を目指す際にもこの点についてどのように克服するのかが大きな課題となります。

また、三内丸山遺跡の場合、かつて大規模に発掘していた時の様子を知っている方にすれば、何とかあの迫力のある状況を見せられないかと思うのも当然のことでしょう。そこで県教育委員会では、地下に埋もれている遺跡の価値をどのように表現するのか、専門家による委員会を立ち上げ、検討をはじめています。

MRシステム(概要)


 

発掘時の状況や当時のムラの様子を現地で表現するためには、いろいろな方法が考えられます。実物の公開や復元も有効ですが、劣化など維持管理の面では大きな問題があります。あるいはCG(コンピューターグラフィックス)で再現するということも技術的には可能です。三内丸山遺跡ではこれまでもCGの復元に取り組んだことがあります。遺跡そのものを痛めることなく、画面上で復元ができますので文化財の保護にも適した方法です。

今回の委員会には、東京大学大学院の池内克史先生が入っておられます。先生はMR技術(ミックスド・リアリティー)の第一人者です。MR技術とは複合現実感とも訳され、現地の風景とCGを組み合わせ、より強い没入感、臨場感を感じさせるというもので、東京オリンピック招致に際し、競技施設建設現場予定地で将来の整備の様子を説明する際に使われたことをニュース等で見た方もおられるかと思います。

MR技術では、見学者の位置を三次元で把握し、視野の移動と連動しながらCGも移動させるのですが、その際によりリアリティーを持たせるために大事なことは、CGにどのような影を着けるのかだそうです。影の有無は見る側の感じ方に非常に大きな影響を与えるのだそうです。たかが影といってはいられないわけです。瞬時にコンピューターが計算し、必要な影を着けるわけですから相当複雑な処理であることは容易に想像できます。ゴーグルを通して現代と縄文時代を瞬時に往来することが可能であり、また、現地で様々な情報が提供されることになりますので、遺跡に新たな魅力が加わることが期待されます。

今後、実現のためには制作費や管理費などコストの問題も重要ですので、現在、委員会ではさまざまな観点から熱い議論が交わされています。今年中には基本的な方針が決められる予定です。

MRシステムによる復元イメージ

プロフィール

岡田 康博

1957年弘前市生まれ
青森県教育庁文化財保護課長  
少年時代から、考古学者の叔父や歴史を教えていた教員の父親の影響を強く受け、考古学ファンとなる。

1981年弘前大学卒業後、青森県教育庁埋蔵文化財調査センターに入る。県内の遺跡調査の後、1992年から三内丸山遺跡の発掘調査責任者となり、 1995年1月新設された県教育庁文化課(現文化財保護課)三内丸山遺跡対策室に異動、特別史跡三内丸山遺跡の調査、研究、整備、活用を手がける。

2002年4月より、文化庁記念物課文化財調査官となり、2006年4月、県教育庁文化財保護課三内丸山遺跡対策室長(現三内丸山遺跡保存活用推進室)として県に復帰、2009年4月より現職。

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