ホーム > 連載企画 > 第30回 師走の朝に

このページの本文

連載企画

縄文の風を感じてみませんか?-土岐 司-

第30回 師走の朝に 2009年12月11日

昨日までは寒気と氷雨で長靴や手袋で防備していたにもかかわらず、1日の朝は乾燥した空気がピンと張り詰めた空気をまぶしい太陽が津軽の山々を際立たせていた。

このような日は山に走り出したくなる。小さなザックにカメラとバーナー、そしてコッフェルにラーメンがあるのを確認して走った。西目屋村に近づくにしたがい迫り来る山々が冷たく光り、遥かな向白神の稜線が神々しく朝日をあびて眩しい。このように気持ちが高まる時に走り出せば、いつでも山懐に飛び込めるところに住まいをしている幸いを感じる瞬間でもある。

`08年12月1日のブナの森は霧氷を着飾った細枝がガラス細工のように繊細に朝日を跳ね返している。人影もない森の静寂、蒼い空を舞うイヌワシの雄飛、この瞬間の全てが私だけの世界なのです。キュンと引きしまった空気を吸いながら薄雪の道を踏みしめる音だけが、そこに存在している証のように感じられる。姿こそ見えないがノウサギの足跡がそこここに見られ、この静寂の世界の住人たちの主張がある。流れに沿うようにテンの足跡が林間に延びているが、二匹なのかもしれない。コナラの樹皮が破られた痕は小型のキツツキが発見した餌場なのか。この痕は秋には気が付かないでいたのだが、最近のものかも知れない。

この静寂な空間に住人たちの姿こそ見ることができないが、紛れもなく命が継がれていることを感じる。川の中ほどの石はわずかに雪の綿帽子をのせ飛び石のように流れに置かれていて、それを避けるように流れが光る。ストックのリングに雪を乗せて水を含ませて口に運ぶと冷たさだけではなく甘美な味が全身に伝わる快感は一年ぶりである。

年賀状を認めなければならない季節なのに、犬ッコロ(犬に悪いかな)のように気ままに飛び出せる津軽という土地に住む者の特権を年の瀬に満喫できるのはいつまでだろう・・・・ふと思う一日だった。

プロフィール

土岐 司

1942年青森県生まれ

高校理科教員を38年勤め、2004年有限会社ヒーリングエコツアーPROガイド エコ・遊を設立。 教員在職中、白神山地を題材とした授業の中で、白神の自然を後世に残すという想いに目覚める。

会社設立より現在に至るまでのシーズン中(5月中旬~11月中旬)に白神を留守にしたのは片手で数えるほど。

バックナンバー

本文ここまで