先日、「東京縄文塾」がありました。
NPO法人三内丸山縄文発信の会の主催で、東京大学で開かれました。
講師は、辻誠一郎先生。「色の文化史と縄文の自然観」と題して、いつもながら、
熱気のこもったお話でした。
ところで、この講演の最後に、「イヌイトの知識と近代科学の比較」を紹介されました。
これは、大阪大学言語文化部の大村敬一先生のカナダ北極圏の先住民イヌイトの研究成果だそうです。
いくつかの項目を立てて、イヌイトと近代科学の特徴を比較しています。
たとえば、近代科学では、「合理的」「客観的で実証的」であるのに、
イヌイトの知識では、「直観的」「主観的で経験的」とそれぞれの特徴を挙げています。
最も興味深いのは、近代科学では、「法則や原理のかたちをとることが多く」
「環境を対象化して管理しようとする」のに対し、
イヌイトの知識では、「逸話や物語のかたちをとることが多く」「環境を対象化したり管理しようとしない」ところに特徴があるといいます。
ここで気のつくことは、驚くべきことに、「イヌイトの知恵」と「近代科学」を対等にならべて、それぞれの特徴を比較していることです。
狩猟・漁労・採集活動を通じて蓄積されてきた豊かな知恵は、
近代科学に勝るとも劣らないという視点なのです。
たとえば、「イヌイトは過去約50年にわたる動植物の分布や季節移動ルートの変動、気象サイクルの変動などの環境の変化を詳細に記憶しているといいます。
辻先生は、「このイヌイトの知恵は、縄文人の知恵にもつながるのではないか」といいます。
マタギなどのケースからみると、縄文人も、相当長期間にわたる森の植生や動物の個体の情報をもっていたろうというのです。
これから、この視点で、縄文人の世界が解明されていったらと思うと、興味深々です。