と、いうようなわけで民博の小山先生の研究室で 縄文人を絵に復元していく仕事が始まりました。 「学校でせっかく日本画習ったのにぃ~・・・ジョ、ジョーモン!!?? っっって…もっと美しいものを描きたいんですけどぉぉ 」状態の私に先生がまず見せたものは出土品のイヤリングと赤い漆塗りの櫛の写真でした。
けっこう歴史は好きだったので縄文土器はそこらの人くらいには見知っていましたが、そこに出ていた縄文人のアクセサリーの複雑にして精巧なつくりには度肝を抜かれました。
ミミズク土偶
鳥浜貝塚出土の漆塗り櫛
たとえばイヤリング。非対称にねじれ絡まりながらも美しい秩序をもって円におさまっている3次元の紋様!一度も見たことがない有機的で完成されたデザインに私は思わず感嘆の声をあげてしまいました。
「この装飾性はもう殆どバロックと言うべきでは!?」
「このアクセサリーでも、あのすごい土器でも、これだけのものを作る人らが毛皮いっちょうで髪の毛をふり乱して暮らしてたと思うかぁ!? ザンバラ髪にこのイヤリングや塗りの櫛を挿してたの?それは現代のわれわれのイマジネーションが貧困なんだ!縄文人はもっとはるかに文化的な暮らしをしてたとは思わんかぁ?」と先生。
・・・なるほど。
このようにして、私の頭にも住みついていた泥臭い原始人の縄文人像を払拭し、バロックまで行き着いていたかもしれない(?)あなどれない縄文人を見つけるため、縄文ルネサ~ンス探検の火蓋がきっておとされたのです!
フィールドワークという大義名分をもってまず、縄文探検隊が行った場所は京都の祇園。
うぇ!やっぱりすけべなおじさんだったのか…? と思いきや、隊長は華やかな表通りには目もくれず重い学術書を小脇にかかえ、地味な路地をまっしぐら、町屋独特の細長い路地の奥の奥、くるくる回るレトロな散髪屋さんのサインに吸い込まれるように入っていきます。
目指すは舞妓の髪を結う髪結いさん。
石畳にひっそりとある勝手口のようなドアを開けると使い込まれた板張りの仕事場。すでに二人の舞妓さんが座って髪にコテを当ててもらっていました。かなり場違いな縄文探検隊はおずおずと来訪の意図を告げ、口八丁で店主を縄文ワールドに引き込んでいきます。
鳥浜貝塚から出ている朱塗りの長い歯の櫛を見せて
「これは縄文時代に作られたものなんですがね、こんな櫛を挿す髪型はどんなんやったと思いますか?」おかみは手も止めずに一瞥して「それはうちらで言うフカバみたいどすね。結うた横の髪をふわっとふくらますときに使います。これを櫛に挿すんやったら髪を結うてへんとずり落ちてしまいますわなぁ…」
先生はすかさず 「この櫛を使ってこの舞妓さんみたいな髪が結えるわけね?! そして使ったあとに髪に挿しておくと?」・・・なるほど!セットに使う道具を髪に挿していればいつでも乱れたヘアーをなおせるわけだ・・・使ってる人でなきゃわからない納得の説明に探検隊は感嘆。
しゃべりながらもおかみさんの手は流れるような動きを止めず、ものの20分ほどで舞妓さんは見る見るふっくらした日本髪に…速くてスケッチをする暇もない!
その間にも先生はミミズク土偶と呼ばれる土偶の写真を見せて、
「これ見てちょーだい! 日本髪結うてるみたいでしょ!」
「へ~これ縄文時代のもんでっか? これやったらお太夫さんとおんなじ。」
と言って さっと出てきたのは花魁のまげ髪のミニ模型! カワイイ!
「まげに髪を結うときの原理はひとつ。ネをつくる。ネをどこに作るかで形が違ってくるんどす。どう分けても仕舞いにはネにまとめる。そやから櫛やかんざしはここら、結い髪のネのあたりに挿します!」(詳細は絵を参照)
何代にもわたって髪を結い続け、華やかな祇園文化を支えてきた伝統の重み。
初のフィールドワークはこの髪結い店のおかみさんの豊かな経験に根ざした力強いアドバイスを頂いて、ひとつのイメージを結んだのでした。
今では当たり前のように見かけるイメージですが、この日のこの探検から、きれいに結い上げた髪に櫛やかんざしを挿した縄文人が、その姿を現したのです。
(次回はシャコちゃんドレスの美女登場!)
安芸 早穂子 HomepageGallery 精霊の縄文トリップ