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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第6回 ストーンサークルと忘れられた世界 2009年7月27日

青森県が誇る美しい環状列石の遺跡、小牧野遺跡での体感インスピレーションをひとつ。 この日の探検隊員は青森市教委の遠藤さんと佐原眞先生。 小牧野と大湯という二つのストーンサークルの遺跡を同じ日に巡る贅沢なツアーでした。

コメニウス VISIBLE WORLD (世界図絵)より

遠藤さん運転の車のなか、後部座席の佐原先生が、うきうきした時にはいつも歌われるドイツ歌曲を軽やかに歌っておられます。 北国の短い夏の終わり、カラッと晴れた空に洗いたてのように真っ白な雲が浮かぶ爽やかな一日。

発掘調査を担当した遠藤さんが、今でも娘のようにかわいいとおっしゃる肝いりの遺跡が小牧野。 車を降りて遺跡まで畑道を歩くと、道端に咲く花にモンキチョウが飛び、木漏れ陽がゆれて夢のようにのどかです。

遺跡は こんもりとした茂みと木立に囲まれて気持ちのよい日向になっています。遺跡に来てよく思うことは この気持ちよさです。川に近いカラッと乾いた丘陵地とでもいうのでしょうか。 場所をここにしよう! と決めるときの人の気持ちっていつの時代も変わらないんじゃないのかなぁ。

ましてや大切な場所にするならば。

小牧野独特の美しい石の組み合わせと配置は、この遺跡の印象を決定しますね。

端正な秩序とでもいうのでしょうか。

遠藤さんが、墓の配置、湧水遺構の場所や泉の伝説などを話してくださいます。

・・・するとのどかな風景の中に突然、神秘のベールが、薄暗い闇のように立ち表れるのを私は感じます。日に照らされてからりと明るい石の、そのひとつひとつを並べた人々が、不可視の闇の向こうにひととき、姿を現すのです。

数千年前、確かにここにいた人々の、計り知れない精神世界がここに姿を留めている。 端正な秩序は、その深遠な世界を律するものだったはずです。

遺跡や出土品の写真、地図、調査資料など 復元画を描くときの私はさまざまな情報をもらいます。 しかし 遺跡の表情とでも言うのでしょうか、その場所が持つ身体的印象は 訪れてしか体感できません。 このようにひととき、遺跡が表情を変える瞬間を感じるために 私は遺跡に出向くのだと思います。

佐原先生は厳しい目をしてあちこちを歩測していたと思えば、好奇心の趣くまま質問を連発、それに答える遠藤さんの朴訥とした話しぶりがまた 青森の風土を感じさせてこの遺跡を親しいものにします。

遺跡を見渡して 皆が口を揃えて言いました。「きれいですねぇ」

ストーンヘンジ幻想

並べられた石、墓、そして泉。 さらに私たちにはもう見ることができない失われた風景・・・それは何の舞台であったのか。 イメージが掻き立てられるひとときです。

蝶が木立のほうに飛んでゆきます。

イヤリングを見たときと同じ感動にとらわれます。

深遠な法則に守られた自然世界と、その時空のなかに配された人間のいるべき場所。 ここにあるものはそれを知るための装置と 受け入れるための作法なのでしょうか?「 これを作った人々は、私たちには到底はかり知れない “秩序と座標” を、読み解くすべを知っていたのではないか・・・?」 唐突に曼荼羅の図が頭をかすめます。

沸いてくるのは畏敬の念とでもいうのでしょうか・・・いや、驚き敬うよりも ここでは嘆息するべきかも知れない。

進化してきたはずの現代の私たちは、「 その昔、人間は“それ”を知っていた。」 という そのことすら忘れて、秩序を省みず、位置づけられた場所を受け入れもしなくなった。

70年万博の 「人類の進歩と調和」 というテーマが思い出されます。 つまるところ「人類の進歩は地球との調和の喪失」 だったわけですよね。

見かけばかりではない、実に端正に造られた縄文のストーンサークルを遠藤さんと今は亡き佐原先生が肩を並べてまぁるく歩いている姿が 私の心に残る小牧野遺跡の心象風景です。

 

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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