ブルトーザーはかっこいいね 知ってるよ
きみたちのヒーローだってね 人間のこどもたち
それを悪く言うんじゃないんだ
(飛騨久々野 堂の空遺跡からイメージ)
ー縄文探検 公文選書よりー
ブルトーザーはすごいパワーだもんね 山を削り、川をせき止め、そこに街を造る
考えるのは
ブルトーザーをね なぜ人間は作ったか
クレーンやパワーシャベルやブルトーザーをつくったとき
人間のなかで何が姿を変えたのか
ということ
だいぶ昔の話をするよ
むかしむかし、人が機械をつくる鉄さえまだ持っていなかった頃
弓と矢、それと土でこしらえた器を持って
人間は皆 旅をしていたと思うんだ
季節が変わり、森が変わると、獣も変わるから
川に行く日、海にいく日、山を越えて遠いところまで獣を追う日もある
獲物がいっぱいいる谷や林 草木が豊かに実る丘
危険なところ 気味の悪いところ 聖なる気配を感じるところ・・・
そんなところを巡る旅の途中で 気持ちのいい安心できるところを見つけると
そこに小さな寝床を作って 眠ったんじゃないかな
昔の人間は
そこはたぶん飲み水の川辺に近くて小高い場所
乾いて日当りのいい気持ちのいい土地
ただね、それだけじゃぁ落ち着かない・・・木立と山が抱っこしてくれる感じがいる
気配に満ちた暗い夜を こころ安らかに眠るために
川と梢の子守唄を聞きながら夢の野原をかけるために
そして夜明けとともに目覚めると
起きだして 鳥がさえずり、雲がわく山の姿を見る
山が、人間の心を奮い立たせる さぁ 行こう!
・・・だからこそ 何べんも何百年も繰り返し
旅人はそこへ眠りに帰ってきたんだ
ブルトーザーはね
人が旅をすることを止めたから発明したんだ
自分は動かないで 風景を動かすために
自分の周りに自分たちの力で 気持ちのいい、住みやすい場所を造っちゃおうと
思ったときから
(浅間山麓 宮原遺跡から復元)
ー浅間縄文ミュージアム壁画ー
昔の人間は自分たちで山をつくったものだ
何十年もかけてお墓やお城にした
そして自然が、年月とともにそこを覆ったり削ったりして美しく飾った
でも ブルトーザーが生まれた頃にはね
もう山は作らないんだ 壊すだけ
自然にまかせる時間はもうない
経済という新しい値打ちが人の頭を支配するようになってからというもの
平らにして街にして お金をもうける
山を作っても お金はもうからないんだって
ブルトーザーは 少し悲しかったかもしれないね
だって 人間は自分たちの作った場所が
さして気持ちいいと思わなくなったのに
造ることを止めないんだ
好きなように川を堰きとめ、山を削り、コンクリートで固める
人間は造りたかったんだろうにね
あの気持ちのいい小高い丘のねぐらを
もう一度
きのう山に行ったんだ
すると谷川沿いの道端にね
捨てられたブルトーザーを見つけた
大きな錆びた鉄の車体には
草がいっぱいに繁って、ツタやきのこが覆って、ひょろりと木も生えていた
そんなときね
ブルトーザーは 「ふぅ」 って言ってる気がする
やれやれ やっと休める
ここがいちばん気持ちいい・・・ってね
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