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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第7回 旅人と山とブルトーザー 2009年8月6日

ブルトーザーはかっこいいね 知ってるよ

きみたちのヒーローだってね 人間のこどもたち

それを悪く言うんじゃないんだ

人の住みかの風景1
(飛騨久々野 堂の空遺跡からイメージ)
ー縄文探検 公文選書よりー

ブルトーザーはすごいパワーだもんね 山を削り、川をせき止め、そこに街を造る

 

考えるのは

ブルトーザーをね なぜ人間は作ったか

クレーンやパワーシャベルやブルトーザーをつくったとき

人間のなかで何が姿を変えたのか

ということ

 

だいぶ昔の話をするよ

むかしむかし、人が機械をつくる鉄さえまだ持っていなかった頃

弓と矢、それと土でこしらえた器を持って

人間は皆 旅をしていたと思うんだ

 

季節が変わり、森が変わると、獣も変わるから

川に行く日、海にいく日、山を越えて遠いところまで獣を追う日もある

獲物がいっぱいいる谷や林 草木が豊かに実る丘

危険なところ 気味の悪いところ 聖なる気配を感じるところ・・・

そんなところを巡る旅の途中で 気持ちのいい安心できるところを見つけると

そこに小さな寝床を作って 眠ったんじゃないかな

昔の人間は

 

そこはたぶん飲み水の川辺に近くて小高い場所

乾いて日当りのいい気持ちのいい土地

ただね、それだけじゃぁ落ち着かない・・・木立と山が抱っこしてくれる感じがいる

気配に満ちた暗い夜を こころ安らかに眠るために

川と梢の子守唄を聞きながら夢の野原をかけるために

 

そして夜明けとともに目覚めると

起きだして 鳥がさえずり、雲がわく山の姿を見る

山が、人間の心を奮い立たせる さぁ 行こう!

・・・だからこそ 何べんも何百年も繰り返し

旅人はそこへ眠りに帰ってきたんだ

 

ブルトーザーはね

人が旅をすることを止めたから発明したんだ

自分は動かないで 風景を動かすために

自分の周りに自分たちの力で 気持ちのいい、住みやすい場所を造っちゃおうと

思ったときから

 

人の住みかの風景2
(浅間山麓 宮原遺跡から復元)
ー浅間縄文ミュージアム壁画ー

 

昔の人間は自分たちで山をつくったものだ

何十年もかけてお墓やお城にした

そして自然が、年月とともにそこを覆ったり削ったりして美しく飾った

 

でも ブルトーザーが生まれた頃にはね

もう山は作らないんだ 壊すだけ

自然にまかせる時間はもうない

in the forest

 

経済という新しい値打ちが人の頭を支配するようになってからというもの

平らにして街にして お金をもうける

山を作っても お金はもうからないんだって

ブルトーザーは 少し悲しかったかもしれないね

だって 人間は自分たちの作った場所が

さして気持ちいいと思わなくなったのに

造ることを止めないんだ

好きなように川を堰きとめ、山を削り、コンクリートで固める

 

人間は造りたかったんだろうにね

あの気持ちのいい小高い丘のねぐらを

もう一度

きのう山に行ったんだ

すると谷川沿いの道端にね

捨てられたブルトーザーを見つけた

大きな錆びた鉄の車体には

草がいっぱいに繁って、ツタやきのこが覆って、ひょろりと木も生えていた

そんなときね

ブルトーザーは 「ふぅ」 って言ってる気がする

やれやれ やっと休める

ここがいちばん気持ちいい・・・ってね

 

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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