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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第29回 三内丸山遺跡の未来を考える その1―Aomori Jomon Timescape の提案― 2010年10月27日

永らく関西に暮らしている外国人の民族学者と、酒宴の席で、三内丸山遺跡と青森県を盛り上げるためにソソられるキャッチフレーズを考えてみました。自分たちが盛り上がってしまったと言えばそれまでですが、なかなかイケてるフレーズができたと思うので提案してみます。

里山と海辺の風景を
Aomori Jomon Timescapeで覗き見ると、

Timescape とは、その土地の風土の広がりを横軸、歴史の深みを縦軸として捉え その座標の間を自由に行き来しながら、風土探訪と暮らし体験を楽しもうという意味の造語です。

三内丸山遺跡を軸の中心にすえて、訪れた人に縄文村の人々がしていた体験を今の青森の風土で再体験してもらう ということになるでしょう。

すでに感じておられるようにこのこと自体はなにも目新しいことではありません。「おまえに言われたくないぜ!」・・・すでに多くのアイデアや実践も行われていることと思いますが、新しさというより再統合的なテーマの提案と捉えてください。例えば、横軸―青森の風土体験は、そこに入ってくる縦軸―縄文体験というくくりによって、里山エリアと漁村エリア、そして土着信仰エリアに絞ってもいいでしょう。

両軸の交点として現れてくるところが 体験ゾーンになります。スタンダードにまず衣・食・住で、私がいい加減に思いつく具体例をあげてみると、

―伝統的皮なめし、皮加工、毛皮識別体験、マタギ装束体験、糸、紐つくりのための植物採集、縄、紐綯い体験、それによる編み物、編み籠、網つくり、草木染め 等

―遺跡出土の骨や殻から 縄文人も食べていた食材を捕る、採集する体験、猟(漁)師が捕るのを見る体験、猟師料理をともに調理し、食べる体験 等

―縄文人が多用していたと思われる樹を山で見つける、切り倒す、運ぶ、それらを使って釘を使わずに道具をつくる、道具を使って木を成形してみる・竪穴を掘る・そしてついには竪穴式住居を作る

お気楽に考えてみました!

ここでは お父さんと息子が活躍できるアウトドア、お母さんと娘のための伝承体験など、男女不平等と言われるかも知れませんがそこが縄文的な「男女で違う生活の領域」なども取り入れて、現代のお父さんと息子たちに野生の感性を復活させる機会、お母さんたちには携帯電話から娘を取り戻す機会を差し上げようではありませんか。

ここでTimescapeの際立つ特徴を述べます。今盛んな「縄文体験」は用意された時間に用意された道具で研究者や専門化をインストラクターとして参加者が体験するというワークショップの形をとっています。

Timescape ではインストラクターの立場を 青森県下に広大に広がる土地、土地の風土色豊かな暮らしをしている住人一人ひとりに委ねます。体験民宿と村ぐるみの季節色豊かなワークショップなどができたらいいな・・・

猟師の民宿経営者や農家の主婦、さらに経験豊かな老人たちが 自分たちの生業にしてきたことの知恵と技術を、そこに滞在している来訪者に披露する、また庭先や裏山で伝授する。縄文時代にもあったであろう風景を、現在の青森の風土として青森人と現代の旅人が共有するのです。

そのためにもうひとつの提案をします。縄文検定や縄文の語り部なる資格を得る機会が設けられているようです。縄文時代に関する知識が豊かな人をまず見つけるんですね。では、その次の展開として、その資格保持者たちに仕事をしてもらおうではありませんか。縄文の縦軸と風土の横軸の接点が素敵な風景を作り出している現場を 今の青森の土地、土地に発見して、そこに暮らす人々が生業としていることや手遊びにしていることのなかに 縄文時代にあったであろう瞬間を見出して登録してもらうのです。

当人が知らなくても持ち合わせているJomon Timescapeを、ご本人に自覚してもらうための「発掘作業」をする立場に語り部や検定合格者を置くべきです。縄文検定合格者と語り部は自動的にJomon Timescape発見のミッションを帯びるわけです。そうして「発掘された」縄文的風景は、現代の旅人に体験してもらえるように受け皿に楽しそうに盛り付けたいものです。

ほんの思いつきですが、たとえば里山の町では「猟師の宿と山菜縄文鍋ピクニックウィーク」、海辺の町では「夏休み限定!漁師の宿と浜での縄文貝塚食材探し」なんてどうでしょうか?家族連れなら 「縄文体験」が、子どもの夏休みの絵日記や工作、理科や社会のレポートにもなって一挙両得です。

このように考えてみると Aomori Jomon Timescapeを、青森と三内丸山遺跡の特性を活かしつつ、より多くの民宿や街に活気と収益をもたらしてくれることを期待できるキーワードにすることができるのでははないでしょうか?

縄文村の「生物多様性環境」は今も青森で生きていますか?
朝日新聞社刊 縄文の子どもたち 小山修三著 より

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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