冬。青森県は雪の下に埋まる季節。
県内にある多くの縄文遺跡も、雪の下に眠る頃です。
前回少しだけ触れた、岩木山麓にある大森勝山遺跡も一般公開を過ぎてから、埋め戻されることになりました。
この「埋め戻し」という作業は、雪の降る地方ならではのことで。降雪によって土の中より掘り起こしたストーンサークルの位置がずれないように、土嚢で石と石の間を埋めて、土の中に保存しておく作業です。
発掘された土器は、空気に触れると劣化が早くなるので、土の下に埋めておくのだそうです。それにしても、大森勝山遺跡は他の縄文遺跡と違って、未だに土器がその場の土に埋まったまま保存されてあるというところが、なんとも魅力的なのです。
だって、土の中に土器が埋まってあるんですよ。土器が!
そんな状態、発掘の現場にいる人以外、見たことがないでしょう?
それは、博物館の展示できれいにガラスケースに収まっている土器にはない、生々しさを醸し出しているのでした。
縄文晩期。三千年前の、その場所の雰囲気。
私にとってはその、「土器捨て場」と呼ばれている場所がすごく、たまらないのです。
「ここは、土器を捨てた場所なんじゃなくて、土器を送った場所なんだよね。」
と、一緒に行ったランディさんが言いました。
「死んだ人の使っていた土器は、その持ち主が死んだら一緒に葬られていたんだと思うの。」
……だから、土器捨て場には欠けていない土器がたくさんあったのだろうか?
「それじゃ、死んだ人のお茶碗を割るのと、同じだったんですね、きっと。」
冬の間、県内の縄文遺跡は雪の下に埋もれます。
一度、五月のまだ雪の山中にある小牧野遺跡に、ランディさんとおにぎりを持って出かけたことがありました。
冬の小牧野遺跡はストーンサークルのてっぺんが二つだけちょこんと顔を出していて。遺跡は雪の下に埋まっていたのですが。そこは、辺り一面真っ白で。何故だか本当に素晴らしい空気に満ちていたのでした。
私は二十代の頃、田口ランディさんの本を読んで何故か、世界を見る目が全く変わってしまったことを覚えています。それは、ランディさんの感じている世界というものが、あまりにも美しく緑の香に包まれており、それを文章を通してかいま見てしまった私は、何故だかその日から、目に映る世界が変わってしまったのです。
まさかそんな作家さんと自分が一緒に、縄文遺跡でおにぎりを食べるとは。夢にも思いませんでした。
「世界に呼びかければ、必ず世界は答えてくれると思うんだよね。」
そう教えてくれたランディさんに、まるで答えるように。小牧野の木々がサワサワと揺れました。「ああ、世界が答えてくれているんだな。」
そう感じると、私たちの佇んでいた場所に、陽の光が差し込んできたのでした。