9月4日午前10時。気温はすでに30度越え。
日向にいれば肌のすべての水分を奪われそうなほどカラリと晴れたこの日の青森。
昨年、一昨年と、雨に見舞われたこのイベントがはじめて迎えた、初の夏日和、ならぬフェス日和だ。起伏のある丘陵に竪穴式住居が立ち並ぶ三内丸山遺跡に、今日はワークショップ・ブースや雑貨店の特設テントがにぎやかに軒をつらね、お祭り気分を誘う。
六本柱の前に組まれたメインステージからアイドル調の歌が聞こえてきた。
「走りだす〜のさ〜ぼくらの夢へ〜」
そう歌うのは、青森が生んだダンス&ボーカルユニットで、りんご娘というらしい。
地域密着型にこだわり、メンバー一人ひとりの名前が青森のりんごの銘柄になっているのだとか。今年に入って、〈さんまのスーパーからくりTV〉テレビに登場し、ご当地ネタ満載のトークと歌唱力のうまさが話題になっているようだ。
りんご娘の出演に象徴されるように、今年のFeel the Rootsは地域発信を全面に打ち出した。運営も地元有志で結成されたJOMO☆ROCKによるもの。会場は六本柱ステージに、大型の復元住居と今回新たに加えたDJステージで構成され、地元で活躍するバンドやDJ、ダンスユニットに、東京から招いたラビラビ、GENZなど4バンドが出演した。 また、昨年夭折した青森出身の絵本作家、沢田としきさんを追悼する〈沢田としきいのちのリレー〉を筆頭に、11つのワークショップが展開され、参加型のフェスティバルをより印象づけた。
NPO法人jomonismは黒曜石で作るアクセサリーと、ポイワークショップ、フラフープ・ワークショップを投入。フードでは、ウェブサイト〈JOMON SPIRIT〉で連載中の舞踏家・料理家のNOARAさんと絵本作家の宮澤ナツさんが連載する縄文フードコラム〈縄文キッチン〉のコンテンツから、栗を使った2品のおやつを販売した。その模様は、JOMON SPIRIT でどうぞ。
三内丸山をイメージしたという「ひかりのみち」を熱唱するGENZ。縄文キッチンのNOARAさんが妖艶なベリーダンスを披露。
六本柱の隣にある半地下の大型竪穴住居は、ひんやり涼やかで暑さから逃れるのにぴったり。夕方からkengo machineとticklesの鎌田さん、Overheadsのめぐちゃんによる即興ライブが行なわれたが、音と映像と燻された木の匂いに包まれて、異次元体験をしているかのようだった。
やがて日が暮れはじめ、子どもたちが作ったペットボトルのキャンドルに火が灯る。
そして、半月に近い月が薄い雲に隠れて60度くらいの高さまであがった、夜19時すぎ。
六本柱ステージにラビラビが登場。
ボーカルのあずみさんは、後方の六本柱にくるりと向かって祈りを捧げたあと、高らかな声で歌い出した。
ラビラビは、ふたりの打楽器とボーカルというシンプルな構成ながら、力強いグルーヴを特徴とする。声を楽器のように扱うため〈歌う〉というよりも〈声あげ〉と言ったほうが近い。
「ライブをしていくうちに、いつしか〈縄文トランスバンド〉と言われるようになって、縄文が好きになりました」
ステージの上で、ボーカルのあずみさんは、そう話す。
三内丸山遺跡でライブをすることができてうれしいと。そして、この土地で生きた縄文の人々に思いを馳せ今日は精霊たちを呼び覚まし、みんなで祭りを楽しもう、と宣言したのだった。
かつて、5000年ほど前に同じ場所で同じように足を踏み鳴らし踊っていた人たちがいた。
現在も出土し続けている土偶や、酒づくりに使われたとされるニワトコの種子、巨大な栗の木をやぐら状に組んだ六本柱跡などから、私たちは縄文の祭りを想像することしかできないが、人々が祭りを必要とする気持は今も昔も変わりないのではないかとも思う。
とくに、震災があり、つらいことの多かった今年のような年は尚のこと、そう思う。
いつしか、夜空の雲は消えて、星がきらめき出していた。
若者だけでなく、ちいさな子どもを連れた家族連れや、その祖父母たちまでもが思い思いに楽しんでいた。これだけ幅広い客層が一様にライブを楽しむ姿は、ロックフェスでは見られないだろう。
最後の曲で、フラフープダンサーのAYUMIさんが登場し、電飾のフラフープをくるくると回転させながら円運動を想起させる踊りを披露。
アンコールはねぶた囃子だ。
「ラッセラー」のかけ声がかかると、会場全員が無条件に踊り出した。青森の人々は本当にねぶたが好きだ。
大地を踏みしめるように踊るねぶたの由来は諸説ある。
けれど、この土地には縄文時代から脈々と受け継がれている何かがあることは間違いない。
そう感じた3年目のFeel the Rootsだった。
(写真:大橋ちよ/草刈朋子)