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連載企画

あそこのおかあさん縄文人だから -山田スイッチ-

第40回 蟹田ストーンサークル 2011年12月1日

「蟹田ストーンサークル」……これが、
青森県東津軽郡外ヶ浜町字蟹田大平沢辺34-3にある
大山ふるさと資料館前に作った
現代のストーンサークルの名称となりました。

2011年9月26日から10月9日にかけた作られた
このストーンサークルは、杉原信幸さんと山形淑華さんという
現代における精霊のような人たちによって作られました。

この場所に、外ヶ浜町教育委員会がストーンサークルを建ててもいいと
言ってくれたのがそもそも奇跡の始まりでしたし、
「ほんの少しの場所でいいので…」とおそるおそる交渉した際に、
「そんなことを言わずに、どーんと真ん中に作ってくださいよ!」
と、町の教育委員会の方が言ってくれたのも奇跡でした。

思うに、この蟹田に住む懐の深い、
人間的に厚みのある方々との出会いがなければ
現代のストーンサークルは生まれなかったのだと思います。

ストーンサークルを作る初日に、なんの迷いもなく
真っ直ぐに川に素足で入っていって石棒を掴んでくる
杉原さんと山形さんの姿は、
もはや縄文人以外の何者でもありませんでした。
石の神様に取り憑かれたかのように、
頭の中は石のことでいっぱいで、
頭の中の世界はそのまま、土の上に突き刺した石の並びに沿って
蟹田の大地に表現されていきました。
「まさか、ここまでやるとは…」と思いました。
彼らの頭の中にあるストーンサークルは、私が思っているよりも
ずっと巨大で、宇宙的なものだったのです。

「だけど、彼ら2人だけではそこまでの大きさの
ストーンサークルは完成しないかもしれない。
この土地の人の協力がない限りは……」
そう思っていると、すごいことが起こりました。
精霊が精霊を、呼んだのです。
彼らの元に蟹田の精霊のような人物が降りてきて、杉原さんと山形さんに
1トントラックと持てる力の全てを与えてくれたのでした。

そこからは何倍ものスピードで石が集まりました。
朝から晩まで、ストーンサークルに没入する杉原さんと山形さんは
石を集め、大地に石を立て続けました。

ストーンサークルを制作する途中に、
この大平山元遺跡のすごさに出会います。
13000年前という縄文草創期、人が石を磨いて斧にするために
作った磨製石器は、縄文土器とはまた違う美しさを持っていました。
「これ、磨製石器なんじゃないかしら?」
近くの村で発見したつるつるに磨き上げられた丸い石は、
ずしんと手によく馴染み、まるで赤ちゃんのように愛おしく、
石に込められた思いが滲んできます。

大平山元遺跡からは16500年前の土器も出土していて、
出土するものによって縄文時代という枠そのものをひっくり返しそうな、
今まさに注目の縄文遺跡なのです。
この場所で、また小林達雄先生にお会いしてしまいました。

小林先生は建設中のストーンサークルを見ると、こう語ってくれました。
「ストーンサークルは動いていくものだから、
どんどん新しく造っていって、毎年ここで何かをしてください」

10月9日のお披露目式ギリギリまで制作された
ストーンサークルは、石の数7700個、直径50メートル、
横幅40メートルという巨大な石の世界への入り口でした。
その石の環の中に立つと不思議なほどに気持ちよく、
いつも太陽が歓迎してくれる気配がするのです。

目印となる、まるで子宮のような丸石の下には、
再送を真似て骨だけにした、2匹の鮫の骨を土器に入れて埋めました。
鮫は、三厩漁協のオカモトさんという方が、
漁で獲ってきたものを惜しげもなく私たちに与えたものでした。

杉原さんと山形さんにとって、
ストーンサークルを作るということは、3・11の大地震と津波を
体験した私たちへの、行為としての祈りでした。

「僕がストーンサークルに向かい、籠めたものも、
言葉を失うような風景を前にして
それでも、それだからこそ、なにかをしなければならない、
その無限の受け皿としての大地と石たちが与えてくれた、
時間と空間の再生が、あそこだったと思います。

言葉のない、無数の人の手による祈りの行為。」

(杉原信幸「ストーンサークル体験記」より)
http://sugihara.blog27.fc2.com/

ストーンサークルは動いていく。
私たちも動いていく。
水が一ところに止まらぬように。
そしてその動きを肌で感じられる頃には、
私たちの魂はすっかりと、再生されているのでしょう。

プロフィール

山田スイッチ

1976年7月31日生まれ。

しし座のB型。青森県在住コラムニスト。 さまざまな職を経て、コラムニストに。 著書に「しあわせスイッチ」「ブラジルスイッチ」(ぴあ出版刊)、「しあわせ道場」(光文社刊)がある。

趣味は「床を雑巾で拭いて汚れを人に見せて、誉めてもらうこと」。

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