石器のカタチは美しい。私は三内丸山遺跡の石器の整理作業を経験してから、そう思うようになりました。
石器のカタチは機能に大きく関係しています。弓矢の矢じりである石鏃(せきぞく)は、ガラス質の石で作られ、速く、遠くまで正確に飛ぶように工夫されて左右対称です。先端部は、機能にかかわる最も大切な部分なので、尖った形や断面が凸レンズ状となる形は共通しています。変化があるのは、柄の装着部分となる下の形です。突起のあるものや抉(えぐ)りのあるものなど、様々です。縄文時代に接着剤として石鏃の固定に使われた天然アスファルトの付き方を見ると、細長い突起のあるものは柄に差し込み、抉りのあるものは柄を三角形に加工して挟み込んで装着することがわかります。
土器が焼き上げにより形が完成し、変化しないのとは異なり、石器は形が小さくなりますが、作り直しが可能です。磨製石斧を例にとると、刃を何度も作り直した末に、全体の形が寸詰まりに見えるものがあります。それでも、可能な限り形が整えられており、道具を大切にしていた事がしのばれます。折れた磨製石斧をハンマーや錘(おもり)に転用したものもあります。緑や青の色が美しい破片では穴を開けて装飾品に加工したものまであります。
さて、石器は、灰色や黒などの地味な色が多いので、その形の美しさは気づきにくいように思います。しかし三内丸山遺跡から出土した石鏃には水晶で作られたものがありました。形を作り出すための加工の一つ一つがカットされた宝石のように多面体を作っています。石そのものの美しさに加え、形の持つ美しさも伝わってきます。
考えてみると、石器の加工と宝石のカットは、原石から形を小さくしていくことや、その石の持つ優れた性質や特徴を最大限に引き出そうとすることが共通しています。
宝石は、見る人が美しく見えるように研磨されます。石器の場合は作る人の満足する形に加工されています。しかし私は、自然の中から石材を選び、道具作りを工夫し、大切に使った縄文の人の心や美意識といったものが、石器のカタチに、にじみ出ていると思うようになりました。機能的であることが石器のカタチを洗練させていることもあり、見る人に美しさを直観させる力があると思うようになったのでした。
(青森県教育庁文化財保護課 文化財保護主幹 斎藤岳)

磨製石斧(写真はいずれも三内丸山遺跡)

錘に転用した磨製石斧,ひもをかける抉りを作り出しています。もともとは下部が刃部。

アスファルト付き石鏃右端と中央上は付き方が異なります

水晶製の石鏃