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連載企画

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第10回 食の縄文化ははじまっている!? 2012年3月21日

昨年、震災と原発事故に伴う計画停電で、今の暮らしがいかに電力に依存しているかを思い知らされた。電車は止まり街角の信号機からは灯りが消えた。家のなかではパソコンも暖房も使えない。電力というエネルギーがなくなれば、移動も時間の使い方もコミュニケーションのあり方もすべて変わるに違いないと思った。

しかし、電力に左右されないものもあった。調理だ。ガスコンロがあればたいていの料理はできた。野菜や肉を切り、かたいものをすりつぶすにも電力は不要だ。調理というシステムはとてもよくできていると思った。

日本列島の調理の歴史はそれこそ縄文時代にさかのぼる。縄文の人々は木の実を石皿ですりつぶし、石で肉を切り、土器を使って煮る、炊く、焼くなどの調理をしていた。甑(こしき)と呼ばれる米を蒸すための土鍋とよく似た形状の土器が縄文時代の地層から出土しているので、蒸し料理を行っていただろうとも言われている。材質の違いこそあれ、包丁、まな板、すり鉢、ざるといった調理道具の原型は縄文時代に開発されている。調理とは原初の面影を色濃く残す行為だと改めて思う。

震災から4ヶ月経った7月、WEBサイト縄文スピリットで、「ナツとノアラの縄文キッチン」がはじまった。縄文時代からある食材と調理方法で作る料理の連載企画で、ベリーダンサーで料理家のノアラさんがレシピと写真を担当し、絵本作家の宮澤ナツさんがおいしさや当時の雰囲気を物語る。

ノアラさんは、日々はベリーダンスの講師や踊り手として活躍しているが、心身の美と健康を保つために食を不可欠と考え、雑穀料理の第一人者である大谷ゆみこさんのもとで学んだ経歴を持つ。縄文文化に共感を感じており、素材を生かしたナチュラルな料理は素朴でとてもおいしい。

宮澤さんは、のびのびとした動きのある絵を得意とし、野外フェスではライブペインティングも披露する。縄文遺跡の多い諏訪湖西側の岡谷市で生まれ育ち、縄文にも詳しい宮澤さんは、2010年のJOMO-T展で地元の土器の絵柄をモチーフにTシャツ作品を出展している。
この二人の現代的なセンスによる縄文料理と解釈がこのコラムの見所だ。

使う食材は縄文人の主食の栗を筆頭に、ヒエやソバ、山芋、クルミ、キノコ、鮭、貝類など。縄文当時はなかったと思われる砂糖は使わず、蜂蜜や自然海塩で調味し、基本、素材のもつ甘みやうまみ、粘り気やとろみを利用した料理となっている。

調理法はすり鉢でする、蒸す、炊く、干す、と、いたってシンプルだが、料理はモンブランや甘納豆、クッキーなどのお菓子や、干しキノコのような保存食、かまぼこ、シチュー、鍋など和洋を問わないメニューで提案している。

当然のことながら、電気製品は用いず、通常ミキサーやフードプロセッサーを使うような行程は「すり鉢で根気よくする」となる。しかし、これがなかなか楽しい。大きなすり鉢にナッツ類を入れて“する”ときのダイレクトに変化していく食材の様子や香ばしさ、手に伝わる感覚は、変化に富んでいる。干しキノコもそうだ。手でさいたキノコがざるの上でカラカラになっていく。じっと待ちながら“育てる”“愛でる”といった楽しみがある。

震災のあった昨年は、保存食が見直され、干し野菜や塩麹を使った料理本を店頭でよく見かけるようになった年でもあった。土鍋でごはんを炊く人も増えたという。十六穀米のような白米にブレンドして炊き上げる雑穀類もよく売れているらしい。震災への不安からだけではなく、健康志向やダイエット志向の高まりも後押ししてのことだろうが、わたしにはそれが“食の縄文化”に見える。

実は、縄文人の食事は栄養学的にも優れたものだったという調査がある。次第に米食に偏っていった弥生式に比べ、狩猟・漁労・採集で山菜や肉、魚をまんべんなく食していた縄文式のほうが栄養バランスは優れていたというのだ。

あながち食の縄文化も荒唐無稽なことではないんじゃないか?まずは縄文キッチンで、縄文時代から脈々と続いている食の知恵や楽しさを発見してみませんか?

プロフィール

jomonism935のDiscover Jomon

フリー編集者・ライター
NPO法人jomonism会員

1972年北国生まれ。東京造形大学造形学部在学中よりインディーズ雑誌Scum発行。

映画のコピーライター、育児雑誌編集、サブカルチャー系書籍編集を経験したのち、フリーランスとして独立。オルタナティブな視線をモットーに縄文からサブカルチャー、オーガニックや子育てものなど興味の向くまま仕事中。

NPO法人jomonismでは「黒曜石でつくるアクセサリーワークショップ」などを展開。女性のための縄文をいろいろ企画中。

著書に『オーガニックライフ』『ラブ・キャンプ』(ともにマーブルトロン発行/中央公論新社発売)がある。

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