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連載企画

縄文の風を感じてみませんか?-土岐 司-

第5回 小さな秋 見つけた 2008年11月17日

私たちが暑いとか残暑だとかと汗を流している頃には、白神の自然は少しずつ秋の序曲を奏ではじめます。津軽はねぷた祭りが終われば秋風が吹くと言われる。ねぷた祭りは津軽の夏を彩る火祭りだが、夏の終わりであり農作業の繁殖期の幕開けでもある。

その頃の白神山地は、少しずつキノコが出始めて愛好者が足を運ぶ時期になる。今年はヒラタケを多く見かけたが、数は少ないものの山の幸に出会う楽しみがある。タマゴタケというキノコがあるが、真っ赤でつるりとした卵形であり食するには抵抗を感じる姿で日陰に生まれるが、これが何とも美味しいのです。薄く切り、火に炙り、しょう油をつけて頂くが、珍味の一言につきる。殊に今年は雨も多く地面が乾く間もなかったので山の幸に出会う機会も多いことだろう。

日当たりにはヌスビトハギのピンクの花が目立ち始めて秋の到来を示します。萩は俳句では季語と聞きますが、秋の使者なのかも知れない。日ごとに秋の使者がそこここに花を咲かせ、いち早く実を結ぶ様は、秋が短い北東北ならではの風情だろう。お客様が目にするキノコの大方は毒キノコです。それでも薄暗い森に頭をだしたキノコは白雪姫の物語を彷彿させてくれるような素敵な景観です。森での彼らの役割を解説することで毒キノコさえ身近な存在になるから不思議です。

立秋を過ぎると、一雨ごとに朝夕の寒さが強まります。その寒さに伴い、樹木の葉が散り始め、散策道の足元に敷き詰められていく。乾燥した大型の葉は踏みしめるとガサッ!ガサッ!と壊れる音がしますが、存在感のある秋を奏でる曲のようで心地良さがあります。首都圏では並木の落葉を踏みつけることもあるかと思いますが、自然の中で聞く音は、格別な音に変換されているように思うのです。

稔りの秋・・・古い時代から食料として用いられてきた木の実、食べられる山草などの食文化は、言うまでもなくブナ林の周辺に点在した縄文人たちの生活を豊かにしてくれたことに思いを馳せるが、食用可と有毒の区別をした陰で多くの死という犠牲があったことを忘れてはならない。

プロフィール

土岐 司

1942年青森県生まれ

高校理科教員を38年勤め、2004年有限会社ヒーリングエコツアーPROガイド エコ・遊を設立。 教員在職中、白神山地を題材とした授業の中で、白神の自然を後世に残すという想いに目覚める。

会社設立より現在に至るまでのシーズン中(5月中旬~11月中旬)に白神を留守にしたのは片手で数えるほど。

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