日本の精神文化について前述したが、「日本人の美意識」は樹木をはじめ多くの植物が人々の生活の傍らにあり、豊かな自然と共存できていたからだろう。現に家紋は1,000年余の歴史を持つ世界でも例を見ない華やかな日本の文化であることは知られるところです。中でも白神に根付く草花は、属や種を検索することも必要だろうが、家紋としてレイアウトされていることも念頭において眺めれば、より親近感を持つことができます。
白神山地の西側、日本海側の海岸線に近い十二湖付近では、ブナ科落葉樹の「カシワ」を散見できる。この樹の葉は「柏餅」に用いられ、公家の紋章にも使われたようだ。何れにしても食の素材に活用させることは、お皿や箸と同じくらい身近な存在であったことが伺われる。
白神山地には針葉樹が極端に少ない。古い時代には全山は針葉樹で覆われていたとされ、津軽半島の海岸線の出来島の埋没林は針葉樹であることから証明されている。山中に見られる針葉樹は「キタゴヨウマツ」だが、彼らは急峻な岩場の割れ目に根をおいて立ち、落葉樹との戦いで岩場に追いやられた感がある。マツは古くから門松として正月の飾りに使われ、長寿を願う意味を秘めた「松紋」として使われている。
白神山地を有する西目屋村は「白神山地の玄関口」として名乗りをあげた豪雪の山村です。小さな田畑がひろがり、日本の典型的な風情が感じられる田畑が点在し、山の事務所への通勤時に稲穂の成長を眺めるのが楽しみです。「イネ」は稲荷神社に代表されるように「神紋」として用いられている。日本人の主食でもあり、豊作を願う農神事の主役でもある。今年は好天日が多く、黄金色の穂波が山間の田んぼに広がる様子は農家でもない私ですが嬉しくなるのです。
白神山地は、ブナを主体にした落葉広葉樹の森です。秋ともなればブナの葉は黄色に色づき燃えたような艶やかさでにぎわう。いわゆる「黄葉」なのです。
(その2へつづく)