「ニュータウン半世紀-千里発 Dream―」大阪は吹田市立博物館の秋季特別展です。東洋初のニュータウンとして夢一杯に設計された千里ニュータウンが 「まちびらき」して以来50年ということで、吹博名物 市民実行委員会が企画した展覧会です。発足当時には超モダンであった団地や公共施設も半世紀を過ぎて老朽化が目立ち、生活スタイルも激変する中、千里はちょうど建替えラッシュで団地の高層化が進んでいます。古い団地は住民が立ち退いてしばしゴーストタウン化しますが、そこにはすぐに瀟洒な高層マンションが建つ といった具合です。
団地がゴーストタウン化するその一瞬をついて、博物館学芸員が、ポストや掲示板、ダストシュートのフタ、ドア横のネームプレートやトイレに至るまで 必死の収集を試みた結果、少なからぬ「古い団地の断片」が博物館入りしたわけです。半世紀展実行委員会からこれらの「収蔵品」を再構成して50年前のニュータウンの遺跡としてアートな展示にしてくれと頼まれました。
団地の断片は そこに暮らした人々の断片でもあり、1960年初頭、当時最新のモダンライフを夢見て移り住んだ人々にまつわる「出土品」とも言えましょう。
それらを遺跡として提示することは 歴史復元イメージのパラドックスというか、面白いチャレンジです。

ニュータウンの夢は遺跡からまた不死鳥のように建替わる!
主役は団地のハウスナンバー。A9号棟からぶんどって来たこの収集品は、ニュータウンに引っ越してきたばかりの人々、特に学校から帰る子どもにとっては我が家への道しるべ、同じ顔をした新しい家の中から我が家を判別するための大切な記号でした。無機質な数字が子どもたちに与えていた安心感を思うと、またひとつ既成概念を破られます。
さらに面白かったのは 玄関ドアやトイレと言った毎日必ず身体に触るもののを展示に入れたときの存在感。自宅の玄関を開け閉めするときのノブの感触や音、トイレならそこで過ごす個人的時間へのオマージュは他の追随を許さないほどの強烈な身体的思い出を喚起するようでした。

当時の公団団地では各階の玄関扉がポップに色分けされていたので表札プレートと各階扉のオブジェにしてみました
また、手軽に名前を入れ替えられる玄関ドア横の表札ネームプレートも、全く同じ色、形にNHKや共済のシールが貼られてはいますが、たくさん収集されると同じ企画だからこそ垣間見えるそれぞれの家の個性があってこれも興味深いことでした。これらは別にオブジェを作り、ズラリと並べて展示。
実行委員長の奥居氏はもちろん千里NTの住民で、しかも日本中のニュータウンを見て回ると言う 鉄ちゃんならぬニューちゃん?ニュータウンのことなら何でも知っているので、2度ほど縄文サロンでも「人が暮らす場所」的テーマでお話頂きました。奥居さんによれば、弥生時代以降低湿地へ降りていった日本人たちは、近代になっても工場や都市に縛られて そのあたりから離れられずにいたものを、働く場所とベッドタウンを分けるニュータウンの思想が芽生えてようやく再び 台地の暮らしを復活させたということです。おお!ここでニュータウンは縄文とつながるのである。
今回の仕事からはそればかりでなく、残されたモノを見る目についても少なからず洞察を深めました。私自身1970年万博の年にニュータウンに入居して、自分が知っている近所の団地やそこにいた友人らを思い出しながら、自らの思い出の断片としても団地の遺跡を展示することになったわけですから、まあ、言うなれば、縄文人が自分で三丸ミュージアム(三内丸山遺跡出土資料展示室)の展示をしたようなものです。
イベント情報
吹田市立博物館 開館20周年記念
千里ニュータウンまちびらき50年関連イベント
ニュータウン半世紀展 ー千里発・DREAMー
http://sui-haku.at.webry.info/
安芸 早穂子 HomepageGallery 精霊の縄文トリップ