大化の改新で中大兄皇子と藤原鎌足が入鹿暗殺の密談をしたと言われる淡山神社に、ひょんなことから参詣しました。縄文サロン馴染みのライブカフェ ワイルドバンチのオーナーから滅多に聴けない最高のメンツと勧められたジャズライブが、飛鳥路に近い奈良中部、伊勢街道の宿場町榛原であると勧められ、通りがかったというわけです。さっすが近畿地方、縄文遺跡では青森に遠く及びませんが、大化の改新ならついでに立ち寄れちゃうのです!

多武峰観光ホテルのテラスから遠望する淡山神社
修験道の聖地大峯山や神秘の大台ケ原へ続く峰々の入口、中世伝説の宝庫に久しぶりに行くので、ライブが始まる夜までどこか近場で物語の気を頂けそうな場所を物色していたら、桜井駅に淡山神社ありとの情報!即決で途中下車です。
吉野山や室生寺にもほど近い都人の奥座敷、多武峰と書いて「とうのみね」、歴史を我がものとしてきた人々による いかにも当て字なネーミングの山に抱かれて件の神社はありました。紅葉の季節ということもあったでしょうか、おや?というほど若い人が多いので驚いていると「縁結びの社」あり。女流漫画家による屏風絵(!?)あり。聞けばすっかり苔むしてしまった桧皮葺の本殿の屋根を吹き替える大工事の勧進中とか・・・神社もなかなか頑張っているのでした。
風情ある灯篭に囲まれ、藤原鎌足公の像も安置される神廊拝所では、漫画屏風のその上に、鎌倉時代の天女の素晴らしい壁画がありました。室町、鎌倉の豪放でありながら壮絶なリアリズムを秘めた作風を現代漫画もぜひ思い出して欲しいものです。
玉石混淆の拝所で最も輝く「玉」大賞は鎌足公の横に並んでいた鎌倉時代の狛犬さん!大概は獅子と見紛う厳つい姿ですが、ここに居るのは私達がよく知っている犬そのもの。護衛犬らしい屈強な筋肉ながら、ご主人に仕えることに無上の喜びを示す誠実な眼、お座りしながら期待に満ちて指示を待つ様子、息遣いの聞こえそうな口、そこからちょっとはみ出た舌の先からずらりと並んだ歯の一本一本に至るまで、真に迫るリアリティを持った中世の犬が2匹そこにいたのでした。
描く対象の姿をそのまま写し取るというよりは、その姿のうちにある本質的なものに迫っていくことがリアリズムと私は考えますが、これはまさしく鎌倉リアリズムの粋との出会いでした。
さて、色づき始めた紅葉の道を本殿の方へ登る途中、水音がするので歩いてゆくと、「龍神の岩窟」に出ました。大和川源流と言われる湧水から湧き出たせせらぎが大岩に囲まれた岩窟に小さな滝をなしています。その背後には 見上げるばかりの大木が生え競う森と遥かに峻険な峰々。まさしくここは雲がわく聖なる領域へ立ち入る直前の禊の場であったことでしょう。多武峰・・猛々しい当て字をもらう以前、「とうのみね」とは遠い神々の峰に思いを馳せる処であったかと思われました。
修復したてのきらびやかな彩色で端正に建つ本殿に至ると、背後の山は御神体そのものの存在感で、大木の間から雲を湧かせ社を抱いているようでした。思えば神様たちを社に閉じ込めて、便利にいつでもお祈りできるようにしたのは人のエゴですね。それまでは、神様の側に決定権があり、人は細心の注意を払って神様が今、その瞬間に降りてこられる時刻その現場に馳せ参じたに違いありません。だからこそ、ストーンサークルや日時計は彼らに大切なものだったはずです。

縄文人は犬を大切に葬った
犬は村を護り、狩りを助け、ときにはよきベビーシッターでもあただろう
いい時間になったので山深い多武峰路をバスで降りて、今宵のライブに向かいます。途中、参道のお土産屋さんの店先で一匹の犬に会いました。顔の毛が白くなった老犬でおとなしく繋がれて主を待っているふうでしたが、縄文の時代以来何千年も人間を護る友達であり続けてくれた彼らに 改めて深い感謝の気持ちが湧きました。
ライブは本当に最高でした。パンクなバリトンサックスとエレキギターの爆音が響くと思えば、ペット、トロンボーン、そしてWサックスの金管部隊が整列して進軍ラッパよろしく真っすぐな音をノスタルジックに奏で、驟雨のようなドラムソロのあとに 林栄一の枯れて艶っぽいサックスが それらの音のジャングルを一陣の風のごとく駆け抜けてゆきました。
犬たちばかりでなく、遠い峰々に住まう神々さえも、このような私たちをゆるしていつまでも護ってくれているのかなあ・・・と金色のメタルから走り出る風の音を聞きながら思った夜でした。
安芸 早穂子 HomepageGallery 精霊の縄文トリップ