日本の公立博物館は「人が来ない、予算カット、人員削減」という悪いスパイラルに巻き込まれ、氷河期といわれるほどに追い詰められた状態にある。その現状を打開できないか、と立ち上げたのが「みんなが楽しめる博物館=ユニバーサル・ミュージアム」研究会である。
会を主催するのは国立民族学博物館の全盲の学者、広瀬浩二郎准教授である。広瀬さんは、研究会が最初に行った三内丸山遺跡でのワークショップで、「出土遺物に直接触らせてもらったことが衝撃的な体験であり、その後の会の行方をきめた」とのべている(『月刊みんぱく』36巻7号 2012)。何千年も前に作られたモノがなぜそれほどの感動を与えたのか。それは本物のオーラというだけでなく、縄文時代は現代と比べはるかに「触覚」が重要だったことを、出土遺物から感じ取ったのであろう。
縄文時代の主な遺物は土器である。なかでも東日本の中期につくられた土器には地文に縄目模様が施され、びっしりと小さな点をちりばめたようなあらい手触りを生んでいる。そればかりではなく、粘土の紐を貼り付けて渦巻きや波状文をつけること、実用には不便にちがいない口縁部が大きく波打っているものも多い。また、それとは逆にヒスイ、コハク、貝や蛇紋岩製などのアクセサリー類、漆塗りの容器のようにツルツル、スベスベした感触を愛でたという面もよみとることもできる。しかし、装飾が凸凹に富み、ザラザラした感触を強調した作品は、後の弥生土器や陶磁器にはあまりみられない特徴である。
「触覚」は縄文人の生活のなかで今よりずっと大きな位置を占めていたようだ。それはどんな意味を持つのかを考えることは、縄文文化を理解するための新しい視点となることを期待している。