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連載企画

世界の"世界遺産"から

第45回 南アフリカは世界遺産級の美味いっぱい。 2013年2月25日

日本海、太平洋、津軽海峡、そして青森湾。日本で唯一、4つの異なる海を持つ。声高には語られていないが、青森県が自慢すべきポイントのひとつだと思う。日本地図を広げて北から南までたどってみても、同じ宝に恵まれた都道府県は見当たらない。それぞれの海が美味を育む。だはんで、青森はおいしく、食材はバラエティに富んでいる。青森が端っこに位置するがゆえのことだが、同じくアフリカ大陸の端っこ、南アフリカは世界で唯一、大西洋(寒流)とインド洋(暖流)の両方に面している国。その南西端の町ケープタウンでは、海老や鮪ほか、豊かな海の幸が満喫できたのである。

日差したっぷり風涼やかな環境のおかげで、野菜や果物も豊富。さらには鶏や豚、牛肉、羊など日本でもお馴染みの肉に加え、レストランのメニューにはダチョウ、ヌー、ステインボック(野生山羊)といったアフリカならではの名前が並ぶ。でもって、びっくりするほど繊細な旨さ。食材の質はもちろんのこと、カジュアル系から高級ホテルまで、いずこでも厨房のレベルが極めて高いのにも唸った。脳内の9割を飲食に捧げているわたくしが、1週間以上もの滞在で、朝、昼、夜、つまみ食いと、常に笑いっぱなし。南アフリカが美食の桃源郷であるという事実は、欧米のグルメには既に知られているようだ。

昼夜、寒暖の差があるメリハリの効いた気候は、ぶどうの栽培にも最適。というわけで、ワインにもノックダウン。南アフリカのワインの歴史は古く、300年以上もの時を経たワイナリーも少なくない。「ワインランド」と呼ばれる、ケープタウン郊外にワイナリーが集まるエリアでは、テイスティングのはしごに勤しんだが、サラミやチーズなどのつまみ(これまた実に旨しっ)が出されて相性を解説してくれたり、ダンスや歌を披露してくれたり。おいしいのは大前提として、その先、楽しむことにもてなしの心が注がれているのが嬉しかった。

と書き連ねればきりがないか、食の世界でもっとも印象深かったのは「ケープマレー料理」との出会い。その昔、西洋から入植したオランダ人のために、東洋からやってきたマレー人が考案したという。スパイスを多様しつつもマイルドな和みの味わいは、忘れがたいものがある。大航海時代、西と東を結ぶ拠点となった、ケープタウンならではの見事な文化の融合。今もなお、家庭料理として愛されているのも面白い。歴史的背景を考えれば、食の世界遺産候補の価値あり、ではないかとも思う。

帰国して半年近くたつが、彼の地の美味への思慕は増すばかり。あ、青森とケープタウン、端っこ同士の姉妹都市ってのはいかがでしょう? その際にはどうぞこのわたくしめに、橋渡しの任命を。すぐにでも、飛びます。

エビ

エビの鮮度を活かした、見事な寸止め調理。おいしゅうございました。
写真:松隈直樹

ケープマレー

ケープマレー料理は、南アフリカのおふくろの味。
写真:松隈直樹

ステインボック

シラーズでステインボックを煮込んだ一品。実に上品。
写真:松隈直樹

プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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