日本海、太平洋、津軽海峡、そして青森湾。日本で唯一、4つの異なる海を持つ。声高には語られていないが、青森県が自慢すべきポイントのひとつだと思う。日本地図を広げて北から南までたどってみても、同じ宝に恵まれた都道府県は見当たらない。それぞれの海が美味を育む。だはんで、青森はおいしく、食材はバラエティに富んでいる。青森が端っこに位置するがゆえのことだが、同じくアフリカ大陸の端っこ、南アフリカは世界で唯一、大西洋(寒流)とインド洋(暖流)の両方に面している国。その南西端の町ケープタウンでは、海老や鮪ほか、豊かな海の幸が満喫できたのである。
日差したっぷり風涼やかな環境のおかげで、野菜や果物も豊富。さらには鶏や豚、牛肉、羊など日本でもお馴染みの肉に加え、レストランのメニューにはダチョウ、ヌー、ステインボック(野生山羊)といったアフリカならではの名前が並ぶ。でもって、びっくりするほど繊細な旨さ。食材の質はもちろんのこと、カジュアル系から高級ホテルまで、いずこでも厨房のレベルが極めて高いのにも唸った。脳内の9割を飲食に捧げているわたくしが、1週間以上もの滞在で、朝、昼、夜、つまみ食いと、常に笑いっぱなし。南アフリカが美食の桃源郷であるという事実は、欧米のグルメには既に知られているようだ。
昼夜、寒暖の差があるメリハリの効いた気候は、ぶどうの栽培にも最適。というわけで、ワインにもノックダウン。南アフリカのワインの歴史は古く、300年以上もの時を経たワイナリーも少なくない。「ワインランド」と呼ばれる、ケープタウン郊外にワイナリーが集まるエリアでは、テイスティングのはしごに勤しんだが、サラミやチーズなどのつまみ(これまた実に旨しっ)が出されて相性を解説してくれたり、ダンスや歌を披露してくれたり。おいしいのは大前提として、その先、楽しむことにもてなしの心が注がれているのが嬉しかった。
と書き連ねればきりがないか、食の世界でもっとも印象深かったのは「ケープマレー料理」との出会い。その昔、西洋から入植したオランダ人のために、東洋からやってきたマレー人が考案したという。スパイスを多様しつつもマイルドな和みの味わいは、忘れがたいものがある。大航海時代、西と東を結ぶ拠点となった、ケープタウンならではの見事な文化の融合。今もなお、家庭料理として愛されているのも面白い。歴史的背景を考えれば、食の世界遺産候補の価値あり、ではないかとも思う。
帰国して半年近くたつが、彼の地の美味への思慕は増すばかり。あ、青森とケープタウン、端っこ同士の姉妹都市ってのはいかがでしょう? その際にはどうぞこのわたくしめに、橋渡しの任命を。すぐにでも、飛びます。

エビの鮮度を活かした、見事な寸止め調理。おいしゅうございました。
写真:松隈直樹

ケープマレー料理は、南アフリカのおふくろの味。
写真:松隈直樹

シラーズでステインボックを煮込んだ一品。実に上品。
写真:松隈直樹