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連載企画

小山センセイの縄文徒然草 小山修三

第21回 冬季オリンピックと三内丸山遺跡 2013年2月28日

冬季オリンピックが開かれるまであと一年をきった。先日は女子アイスホッケーが第一号の出場権を得たと報じられたし、ジャンプの高梨さん、フィギュア・スケートの浅田さんなどが着々と出場権を得るための実績を積み重ねている。彼女らも金メダルを獲得して日本中をわかせるのだろうか。メダルにはいたらなくても、カーリングというそれまで知らなかった競技の面白さに惹かれて、つい夜更かしをしてしまったバンクーバー大会のチーム青森の女性たちのりりしさを思い出す。

今回の開催地はソチである。黒海の東岸にあり、背後にコーカサス山脈をひかえたロシア有数の保養地。なんだか聞き覚えのある地名だなと思っていたら、三内丸山遺跡のシンボル的存在、大型掘立柱のクリ材に深くかかわっていた。

大きな穴は6つ、4.2m毎に整然と矩形に並んでいて、縄文尺の存在さえうかがわせた。さまざまな調査と討論の結果、高島(たかしま) 成(せい)侑(ゆう)さん(元八戸工業大学教授)の設計図をもとに、建築物としての想定復元をすることが計画された。問題はその素材だった。1mの柱根をみたとき、私はカナダのトーテムポールを連想し、これは針葉樹、それならばヒバだろうと思った。ところが、鑑定の結果はクリ。クリは枝を張るので高くはならない、だから柱は短かったに違いないと言う意見もでたが、青森の各地から「そんな木ならおらほにもある」という知らせが相次いだそうだ。奥山で他の木と混じって育つと、枝を張らずにまっすぐ伸びる。ところがその多くは現在では希少で、調達は無理だとあきらめかけていたらしい。

そこに、コーカサス山脈に自然保護林があり、その整備のために処理する木が利用できるというニュースが入ったそうだ。さすがは森林大国ロシア。6本のクリの大木が、ヘリコプターでソチへ、そこからシベリア鉄道でナホトカへ、そして船で青森まで運ぶというドラマが生まれた、という話を当時の事情に詳しいSさんから聞いた。そのクリの大木をみんなで力を合わせて引いた「木曳(こびき)式」のまるで縄文時代にタイムスリップしたような光景を今も鮮やかに思い出す。気がつけばあれからもう20年がたっている。この遺跡にはたくさんの物語が埋め込まれていると感慨を覚えるのである。

大型掘立柱建物復元工事の様子(1996.9) 
大型掘立柱建物復元工事の様子(1996.9)
竣工式(縄文フェスタ)の様子(1996.11)
竣工式(縄文フェスタ)の様子(1996.11)

プロフィール

小山センセイの縄文徒然草

1939年香川県生まれ。元吹田市立博物館館長、国立民族学博物館名誉教授。
Ph.D(カリフォルニア大学)。専攻は、考古学、文化人類学。

狩猟採集社会における人口動態と自然環境への適応のかたちに興味を持ち、これまでに縄文時代の人口シミュレーションやオーストラリア・アボリジニ社会の研
究に従事。この民族学研究の成果をつかい、縄文時代の社会を構築する試みをおこなっている。

主な著書に、『狩人の大地-オーストラリア・アボリジニの世界-』(雄山閣出版)、『縄文学への道』(NHKブックス)、『縄文探検』(中公 文庫)、『森と生きる-対立と共存のかたち』(山川出版社)、『世界の食文化7 オーストラリア・ニュージーランド』(編著・農文協)などがある。

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