去年に引き続き、今年の冬も酸ヶ湯温泉の積雪量が一時期、メディアで連日のように取り上げられていた。酸ヶ湯=青森そのもの。街中まで5メートルもの雪に覆われているかのような誤解を生み、そちらでも話題になったと聞いたが、実際にわたくしも、「青森、すごいねえ」と周囲から妙に感心された。とはいえ、この一件がなくても、たとえば青森では冬に2階から出入りする、という間違った景色が胸に刻み込まれた方々は、全国ではまだまだ少なからず。とくに南方面の皆さまにとっては、大雪の日々を想像するのは難しい。縦型の信号機や階段のついた電話ボックスはもちろん、ガラスで囲まれ二重になった玄関先を見て、不思議な表情になった九州人も。
旅人とは、ときとして勝手なもの。雪国の冬には“雪”を期待する。酸ヶ湯のニュースを知り、喜びいさんで青森を訪れた観光客がいたという話にも納得である。地吹雪ツアーのごとく、雪を満喫したい需要は多々あるのではないか。そう実感したのは、去年の2月。酸ヶ湯同様に雪深い、白神山地でのトレッキングツアーだった。冬期は一般車両が進入不可のエリアまでまずはコマを進め、その先、スノーシューと呼ばれる洋風かんじきをはいて歩く。ゴールがあるわけではなく、お宝が待つ、なんてこともないけれど、ひたすら、ひたすら、歩くのだ。なして、そったらどごへ? と思われる方もいるだろうが、わたくしが案内した東京からのご一行さまは、長年のつきあいでも見たことのない、無邪気な笑顔になった。
新雪を踏み、かきわける感覚、雪に彩られた木々、時折垣間見える青空、うさぎの足跡。一見なにもない純白に、喜びが多数潜む。人智が及ばない世界の、ひとつひとつが美しく感慨深い。そのうち圧倒的な自然の力に心がはしゃぎ、雪玉をぶつけあい、お尻で斜面をすべり降り。どうやら大量の雪は、人を子どもに戻す効果があるらしい。ウイスキーを持ってきて、雪で割れば良かった~と悔やんだのは、ダメなおとなだが(持っていってはいけません)。雪を掘ってテーブル席を作り、車座になって食べたきのこ汁、若生昆布のおにぎり、“イガメンチ”が、また旨しっ。
この雪がとけ、たけのこやらみずやらを育み、田畑を潤し、さらには日本海の魚に滋養をもたらす。すなわち、世界遺産である豊かな白神山地の恵みを司っていると思えば、さらに感動が増す。桜まつりをはじめ、これからが青森県の本格的な観光シーズンではあるが、その間、「冬の魅力」にも、あらためて思いを馳せていただきたい。雪国ではあたりまえのことが、遠方からの客人にとっては、ある種のファンタジーなのである。

なんでわざわざと思われるでしょうが……皆、笑顔です。
写真:松隈直樹

我を忘れて満喫中。
写真:松隈直樹

土岐司さんのご案内がまた素晴らしく。
写真:松隈直樹