十代から二十代の頃、私にとって東京はライブを観に行く場所でした。
大好きなバンドのソフトバレエを追いかけて、渋谷公会堂へ。
憧れの女性シンガー、CHARAのライブを観にNHKホールへ。
ところが、二十代と三十代の間に横たわる10年というものは
非常に濃密でして、何がどう変わったのかは知らないのですが、
私にとっての東京は今や、憧れの縄文土器に会いに行く場所に
取って替わっていたのでした。
国宝の土偶が集まると聞けば、縄文のビーナスや
縄文のメドゥーサを観に東京国立博物館へ!
「わあ~! 今、東京で観ることが出来る土器って何かしら?
ええっ!? 神奈川県の勝坂式(かっさかしき)土器が展示中? 場所は相模原市?
やだすごい、新潟の火焔式土器も展示するんじゃん! これヤバくない?
東京じゃないけど行っちゃお~!」
と……。とうとう、好きな土器が観られるのならば、
場所を問わずに出かけるようになりました……。
決して音楽が嫌いになったわけではないのです。ただ単に、
土器が好きになってしまっただけなのです。
その証拠に、私が相模大野まで出かけて縄文土器のショーケースににかぶりつきで
土器の細部を覗いている間、
私の頭の中を流れている曲は、ビヨンセの「Crazy In Love」なのです。
さあ、相模原市の相模原市立博物館でビヨンセの
差し迫るような歌声をバックに意味ありげに登場したのは、
神奈川県横浜市栄区公田町出土の、縄文の貴公子。
土偶の世界で一番大きい頭部を持つ縄文の貴公子です!
実際は、この頭部が土偶であるかどうかはまだ謎なのだそうですが、
本当に子どもの頭と同じくらいの大きさがあり、正面の顔は健やかで気品があります。
縄文の貴公子様の背面は、意味ありげで深く暗い穴を思わせる文様が彫り込まれています。ああ、これは、長野県富士見町の、曾利遺跡出土の釣手土器、
(愛称は縄文のメドゥーサ)の背面みたい……!
健やかな生を表す正面の顔と、死を思わせる暗い穴。
生と死との両方が、やはり、この縄文の貴公子にも表現されているのだと
私は感じました。
優れた表現には常に、生と、死との両方を感じさせるものがあるのかもしれません。
ビヨンセの歌う「Crazy In Love」は最後、耳に残るほどの「Got me lookin so crazy right now(ガタ ルキソ クレージラーナー)♪」を繰り返します。
「今の私は誰から見てもクレイジーにしか見えないでしょう?
あなたの愛で私はもうクレイジーにしか見えないのよ。」
そしてその、背面に掲げられた狂いそうなほどの気持ちの表面には、
清らかな、ビヨンセの美しい顔が、掲げられているのです。
縄文土器を見学の際には、ぜひとも頭の中で全米ヒットチャート1位の曲を
再生してみて下さい。そうすると、土器の見え方も変わってくるかも知れないです。
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