三内丸山遺跡で「JOMONナイト」が開催されて参観者の一人として席についた。月のきれいな2008年9月20日のことでした。大型竪穴住居に座りながら、この屋根の下で過ごしたであろう縄文の人々が何を語りながら食べていたのだろうと思いを巡らしてみた。
その答えは、そんな思いを巡らした直後に出されたのです。ミスター三内丸山こと青森県教育庁文化財保護課三内丸山遺跡保存活用推進室長(現 文化財保護課長)の岡田康博氏が監修しプロの料理人が再現して腕を振るった「縄文料理」が卓を飾ったのです。素材は何であろう私が見慣れていて毎日食べている物なのです。多分、都会人には何が使われているのかは判断できないだろうが、東北人の私、いや、縄文人の私には直ぐ分かるものばかりでした。山野にあるクレソン、あざみ、かたばみ、ミズ、ゼンマイ、クルミ和えなどが塩で味を調えられて土の器に盛られている。スルメ、鯛、ホタテなどの魚介類の蒸し焼きも並んでいる。シェフが黒い矢尻の刃でヒラメの刺身を削ぎ出して昆布に包んで出してくれる。
ほの暗い明かりの中で、驚きと感動を共有する人たちが瞬間にして縄文の世界にワープしたのです。全ての食材が、この近くの海や山で調達されたものばかりなのです。「縄文人はグルメだね」などと酒杯が重なるにつけて感動が言葉に代わって出てくる。土の中から掘り出された4000年ほど前の小さな土器に注がれた酒を口に含んだ時に「ああ、俺たちは縄文人なんだ!」「縄文人たちと同じものを食べて生きているんだ!」と得体の知れない戦慄が背中を駆け抜けたのでした。
同じ食文化が現代の私たちの中に受け継がれているという、この感動は異文化の人々に理解してもらえるのだろうか。少なくても自分たちの文化遺産をしっかりと受け止めている民族には理解してもらえるのではないだろうか。
酒で温められた体に渇をいれるのに外に出てみた。縄文遺跡の上に見事な下弦の月が冷たい光を注いでくれていました。舞台芸術に見間違えるように・・・。
私は胸いっぱいに冷たい空気を吸い込んで、白神山地の方向を眺めていたのでした。