ここのところ頻繁に青森へと帰る機会に恵まれているが、日によっては東京と比べ、気温差10度近くということも。束の間、心身は癒やされるものの、その分、戻ってくると地獄の度合いは深まる。生憎と築45年の我が城の備え付けクーラーはへなちょこで、とんと役立たず。首に手ぬぐいを巻きつつ、ひいこらいいながら原稿に励むなか、ふと懐かしく思うのは、遙か敦煌で食べたスイカ。
この連載の第2回でもご紹介したように、世界遺産「莫高窟」と合わせて訪れたのが、敦煌の南西に位置する巨大な砂丘「鳴沙山」である。目的は、朝陽の撮影だった。すなわち、出発はまだ真っ暗な夜明け前。景色の全容もわからぬまま、地平線が望める高みを目指して歩き出した。ひんやりさらさらの砂の感触が気持ち良く、裸足になってすっかりご満悦。大はしゃぎでわざわざ坂を転がり落ちてみたりもしたバカ者は、あたりがうっすら明るくなってきて、ガイドさんからたどり着くべき場所を指され愕然となる。えっ、あんなとこまで行くの?
持久力というものがかけらもない運動音痴はそのうち、確実に疲れてきた。息はきれ、足は重い。しかも、3歩進んで2歩下がる、どころではないのだ。踏み出し方を間違えると、ずずずずず~っと、何メートルも後戻り。なぜにこんなきつい仕事をしているのかと自分に問いかけ、やがて頭は真っ白になったが、ようやくたどり着いたてっぺんから景色は地平線にオレンジのラインが走り、すべてを忘れるほどに麗しかった。しかし、ふうっ、とひと息着いたところで、はたとあることに気づく。世界有数のものぐさであるわたくしは、単に重いからという理由で、ミネラルウォーターのボトルをホテルの部屋に置いてきたのだった。とたんに喉の渇きを覚えるも、まわりは砂だらけ。やがて陽はのぼり、容赦ない輝き攻撃が始まった。登るのも大変だったが、足場が心許ないので、降りるのはもっと大変。何度もひっくり返り、ようやくのことで任務を完了したのである。
もはやホテルでシャワーを浴び、冷たいビールを煽ることしか頭にないなか、門前の道端で目に入ったのが、屋台のスイカ。鈍い本能とて、ハードな環境で覚醒していたのだろう。考える間もなく掛けより、小銭を払った。ナタでばしっと割ったその一片の、なんとまあ旨かったこと。たっぷりと含まれた水分とやさしい甘味が、体中を駆け巡っていく。お行儀なんでク●(自粛)くらえ。口や手がべたべたになるのも気にせず、無我夢中でわしわしと平らげた。ようやく我に返ったところで、かつてのシルクロードの旅人に思いを馳せる。長旅でくたびれ果てていた彼らもまた、この地でスイカなりウリなりを頬張って笑顔になったのだろうなあ。小さな冒険で音を上げているわたくしの何倍も、何十倍も、

スイカ同様に忘れがたい美しい朝。
写真:松隈直樹

砂が連なる景色は敦煌の街に迫るかのように広がる。
写真:松隈直樹